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「麹菌がコレステロールを下げる」という臨床研究がある。毎日使っている私には、他人事じゃなかった。


コレステロールの値が気になり始めたのは、50代に入ってからだ。

健康診断のたびに「もう少し下げてください」と言われ続けた。食生活を変えようと思って始めたのが、発酵食品だった。塩麹、醤油麹、ぬか味噌、お味噌。気づいたら、毎日のように麹が作ったものを食べていた。

そんなとき、麹菌とコレステロールに関する研究を知った。

臨床試験で、コレステロールが21mg/dL下がった

Clinical Nutrition 誌(2015年)に掲載された臨床試験の話だ。

高脂血症の患者を対象に、麹で発酵させた食品を12週間摂取してもらったところ、総コレステロールが平均21mg/dL下がった。12週間で、21。数字として見ると、なかなかの変化だと思う。

さらに2021年の別の研究でも、発酵大豆製品を12週間続けたグループで総コレステロールが0.23 mmol/L、LDL(悪玉)が0.18 mmol/L下がることが確認されている。

麹菌が日本食に果たしてきた役割

麹菌は、日本の食文化に欠かせない存在だ。

味噌、醤油、みりん、日本酒、焼酎、酢。これらの多くが麹菌の力で作られる。日本の伝統的な発酵食品のほとんどが、麹菌という微生物に支えられている。

麹菌(Aspergillus oryzae)は、日本だけに生息する特有の菌だ。稲穂や麦などの穀物に付着して繁殖する。これを人間が農耕の過程で発見し、食品の発酵に利用してきた歴史がある。

「一麹、二酛、三造り」という言葉がある。日本酒造りにおける優先順位を示す言葉だが、発酵食品全般においても麹の重要性を示している。麹が一番大事。それだけ、この菌の力は大きい。

今回紹介した研究が示したのは、この古来から知られた麹の力が、現代の科学的手法でも確認できるということだ。

研究の概要を整理する

今回紹介するのは二つの研究だ。

一つ目は2015年にClinical Nutrition誌に掲載された臨床試験。高脂血症の患者を対象に、麹発酵食品を12週間摂取した結果、総コレステロールが平均21mg/dL低下した。研究対象者は医師の管理下にある患者であり、適切な条件の下で行われた試験だ。

二つ目は2021年の別の研究で、発酵大豆製品を12週間続けたグループでの変化を測定したもの。総コレステロールが0.23 mmol/L、LDLが0.18 mmol/L下がるという結果が確認された。

どちらも12週間という期間での変化だ。3ヶ月という時間、毎日発酵食品を食べ続けた結果が、血液の成分に変化をもたらした。発酵食品の効果は、すぐには現れない。でも続けた先に、変化がある。

コレステロールとは何か、改めて整理する

コレステロールを「悪いもの」と思っている人は多いが、正確にはそうではない。

コレステロールは、細胞膜やホルモンの材料になる、体にとって必要な成分だ。ただし、血中のコレステロールが増えすぎると、血管の壁に蓄積して動脈硬化を引き起こすリスクが高まる。

LDL(低密度リポタンパク質)は「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁に蓄積しやすい。一方、HDL(高密度リポタンパク質)は「善玉コレステロール」と呼ばれ、余分なコレステロールを回収する役割を持つ。

健康診断で問題とされるのは、主にLDLの値が高すぎる状態だ。今回紹介した研究で低下が確認されたのも、この総コレステロールとLDLの値だ。

麹菌が作る「酵素」が、体の中で静かに働いている

麹菌(Aspergillus oryzae)は、数百種類もの酵素を産生する。

プロテアーゼ(たんぱく質を分解)、アミラーゼ(でんぷんを分解)、リパーゼ(脂肪を分解)。これらが腸の中で働き、腸内細菌のバランスを整える。特にビフィドバクテリウム属の増殖を助けることが研究で示されている。

腸の中で、見えない作業が続いている。そう思うと、毎日の塩麹もぬか漬けも、少し違って見えてくる。

私が毎日使っているものは、全部「麹が作ったもの」だった

改めて考えると、私の食卓に並ぶ発酵食品のほとんどが麹由来だ。

味噌(大豆+麹)、塩麹(玄米麹+塩)、醤油麹(玄米麹+醤油)。食事の時は必ず味噌汁、糠漬け。冬に仕込む手前味噌。全部、麹菌の力で発酵している。

ちなみに麹菌は、アメリカのFDA(食品医薬品局)から「Generally Recognized As Safe(GRAS)」として認定されている。安全性の面でも、お墨付きだ。

塩麹を毎日使うようになったきっかけ

私が塩麹を使い始めたのは、ぬか漬けを始めてから数ヶ月後のことだ。

スーパーで見つけて「どう使うのだろう」と買ってみた。最初に試したのは鶏もも肉への下味だ。一晩揉み込んで焼くだけ。そのおいしさに驚いた。肉が柔らかく、塩気と旨味がちょうどいい。

麹のプロテアーゼが肉のたんぱく質を分解して、柔らかくしてくれるのだそうだ。それからは塩麹を台所の定番に加えた。野菜炒め、魚料理、スープの隠し味。毎日のように使っている。

この習慣が、麹菌を毎日体に入れることにつながっていた。

「制限する」から「整える」へ、発酵食品が変えてくれた感覚

コレステロールという数字に追われていた頃は、どこか「我慢する食事」を考えていた気がする。油を減らす、好きなものを控える。どこか足し算ではなく、引き算の発想だった。

けれど発酵食品を取り入れてからは、少し感覚が変わった。制限するのではなく、「整える」という感覚に近い。塩麹をひとさじ加える、味噌汁を一杯飲む、ぬか漬けを添える。それだけで、食事全体がやわらかくまとまるようになった。

正直なところ、劇的な変化をすぐに感じたわけではない。ただ、続けていくうちに、体の内側が静かに整っていくような感覚がある。朝の目覚めや、食後の軽さ。数値では表れにくい部分に、小さな変化が積み重なっている。

今回紹介した研究結果を見て、その感覚が裏付けられたように思った。あの21mg/dLという数字の裏側で、同じように日々積み重ねている人がいるのだと想像すると、少し心強い。

これからも特別なことはしないと思う。いつものように味噌汁をつくり、ぬか床に手を入れる。ただ、そのひとつひとつが、自分の体を整えているのだと意識しながら続けていきたい。

発酵は、効かせるものではなく、寄り添うもの。そんなふうに感じている。

発酵食品は「薬」ではない

ここで一つ、誤解のないように書いておきたい。

発酵食品は薬ではない。今回紹介した研究で「コレステロールが21mg/dL下がった」という結果があったが、これはあくまで研究上の平均値だ。個人によって効果は異なる。また、高コレステロール血症の治療として発酵食品が処方されるわけでもない。

コレステロール値が高く、医師から薬を処方されている方は、発酵食品を食べたからといって薬を自己判断でやめることはしないでほしい。発酵食品はあくまで食事の一部として、日常的に取り入れるものだ。

ただ、毎日の食事に発酵食品を取り入れることで、腸内環境が整い、それが体全体のバランスに良い影響を与える可能性は、科学的に示されつつある。薬に頼らない健康づくりの、一つの選択肢として位置づけるのが正確だと思う。

健康診断と発酵食品の長い付き合い

私が発酵食品を本格的に始めたのは、健康診断の数値がきっかけだった。

「コレステロールが高い」と言われ続けた。医者から「食生活を改善してください」と言われた。「何をどう変えればいいのか」がわからないまま、とりあえず発酵食品を増やしてみた。

それから1年以上が過ぎた。次の健康診断では、数値が改善傾向にあると言われた。食事以外にも、ジョギングを続けたことや、禁煙したことも影響しているだろう。でも発酵食品も、確実に貢献しているはずだと思っている。

今回紹介した研究結果を読んで、あの改善は気のせいではなかったと感じた。麹が体の中で静かに働いていた。その証拠が、科学的なデータとして示された。


麹は、日本人が何百年もかけて育ててきた菌だ。その力が、科学の言葉で証明されつつある。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。