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甘いものを食べても太りにくい人がいる。腸内細菌が砂糖の影響を変えるメカニズム
「甘いものを食べても太りにくい人」がいる。
体質の差、運動量の差——様々な説明が語られてきた。しかし最新の研究が示すのは、その差の一因が腸の中にある特定の細菌の存在にある可能性だ。
2025年1月29日、学術誌 Nature Communications に発表された研究が、腸内細菌 Streptococcus salivarius(ストレプトコッカス・サリバリウス)が砂糖(スクロース)から難消化性の菌体外多糖(EPS)をつくり、スクロースによる肥満を抑える可能性を示した(PubMed ID: 39880823)。発表したのは、京都大学大学院生命科学研究科の木村郁夫教授を中心とする、京都大学・東京農工大学・慶應義塾大学などの共同研究チームだ。
約500人の便検体から見えてきたこと
この研究の大きな特徴は、ヒトを対象にしたデータから出発していることだ。
研究チームは、健常者および肥満症患者を含む約500人の便検体を手がかりに、スクロースからEPSをつくる腸内細菌を探索した。その中で、ヒト消化管に常在する Streptococcus salivarius に注目した。
論文中の解析では、S. salivarius の存在量が肥満(BMI 30以上)と逆相関することが示された。さらに肥満の人では、EPSから短鎖脂肪酸へつながる糖代謝プロセスが弱まっていることも報告されている。
単なる動物実験の結果ではなく、ヒトのデータで「肥満の人では S. salivarius が少ない傾向がある」という相関が示された点は、研究として重要だ。ただし、これはあくまで相関であり、この菌が少ないから必ず太ると証明したものではない。
Streptococcus salivarius という腸内細菌
Streptococcus salivarius(以下S. salivarius)は、もともと口腔内に多く存在する連鎖球菌の一種だ。ヒトの消化管にも常在しており、一般に病原性は低い。
この菌の特徴は、スクロース(砂糖の主成分)を好んで利用することだ。スクロースを基質として代謝する際、S. salivariusは大量の EPS(菌体外多糖:Exopolysaccharides) を産生する。
EPSとは、細菌が細胞の外側に分泌する多糖類の総称だ。乳酸菌がヨーグルトのとろみをつくるときにも、EPSが関与している。S. salivariusが産生するEPSは、ヒトの消化酵素では分解されにくい「難消化性」の性質を持つ。
砂糖が「難消化性繊維」に変わる
ここが研究の核心だ。
通常、砂糖(スクロース)は小腸でブドウ糖と果糖に分解され、吸収される。摂取エネルギーが消費量を上回る状態が続けば、余剰分は脂肪として蓄積されやすくなる。これが「甘いものを食べすぎると太りやすい」理由の一つだ。
しかし腸内に S. salivarius が豊富に存在する場合、摂取したスクロースの一部がこの菌に取り込まれ、EPSに変換される。EPSは難消化性のため、小腸で吸収されずに大腸まで届く。
大腸に届いたEPSは、Bacteroides属などの腸内細菌に利用され、**短鎖脂肪酸(SCFA:酢酸・プロピオン酸・酪酸)**の産生につながる。
この流れを論文は「EPS-SCFA-糖代謝軸」と呼んでいる。
SCFAが代謝に関わり、肥満を抑える可能性
産生された短鎖脂肪酸は、腸壁などに存在する受容体(GPR41・GPR43)に作用し、代謝調節に関わると考えられている。この研究では、マウス実験で次のような変化が確認された:
- GLP-1などの腸管ホルモンの増加
- 血糖応答の改善
- 脂肪組織重量の増加抑制
- 糞便中のSCFA濃度の上昇
マウスに S. salivarius やEPSを用いた試験では、スクロースを多く摂る条件で、体重や脂肪組織の増加が抑えられることが確認された。
つまり、砂糖を摂取しても S. salivarius がそれをEPSに変換し、EPSがSCFAになり、SCFAが代謝を整えるという好循環が成立している可能性がある。腸内に十分な S. salivarius がいれば、甘いものを食べてもその影響が軽減されるかもしれない——それがこの研究の示す仮説だ。
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発酵食品との接点
S. salivarius は、発酵食品そのものに多く含まれる菌というより、ヒトの口腔や消化管に見られる常在菌だ。ただし、この研究が示す「EPS-SCFA軸」は、発酵食品の世界とも接点がある。
乳酸菌の中には、発酵の過程でEPSを産生するものがある。ヨーグルトのとろみや、一部の発酵食品の粘性にも、こうした多糖類が関わることがある。これらのEPSが腸内細菌に利用され、短鎖脂肪酸の産生に関わる可能性は研究されている。
一方で、味噌・納豆・漬物を食べれば S. salivarius が増える、と直接示されたわけではない。ここは切り分けて考える必要がある。発酵食品は腸内環境を支える食習慣の一つとして注目されているが、今回の研究の主役はあくまでヒト常在菌である S. salivarius と、そのEPS産生能力だ。
「腸活で痩せやすくなる」という言葉は以前から語られてきたが、今回の研究は、その背景にありうるメカニズムの一端を具体的に示した点で重要だ。
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まとめ
京都大学らの研究チームは、腸内細菌 Streptococcus salivarius がスクロースから難消化性のEPSをつくり、腸内での短鎖脂肪酸産生を通じてスクロース誘発性肥満を抑制する可能性を明らかにした(Nature Communications, 2025)。ヒトの便検体解析では、肥満の人ほどこの菌の存在量が少ない傾向も確認されている。
ただし、これは主にマウス実験とヒトの観察データに基づく研究だ。「この菌を増やせば必ず痩せる」と断言できる段階ではなく、プロバイオティクス・プレバイオティクスへの応用にはさらなる臨床試験が必要だ。
それでも、同じものを食べても太りやすさが違う理由が、腸内細菌の構成にある可能性が示されたことは、食と健康を考えるうえで重要な視点を与えてくれる。
同じ砂糖でも、腸の中で何が起きるかで、体への影響が変わる。腸内環境とはそういうものだ。
Toshiより
今回の研究を読んで、改めて「同じものを食べても、人によって体の反応は違う」ということを強く感じました。
甘いものを食べても太りにくい人がいるのは、単に体質や運動量だけの問題ではなく、腸内細菌の働きも関係している可能性がある。そう考えると、食べ物は口に入れた時点で終わりではなく、腸の中でどう処理されるかまで含めて、体への影響が決まっていくのだと思います。
特に印象に残ったのは、砂糖そのものが悪者として終わるのではなく、腸内細菌によって別の物質に変えられ、その後の代謝に関わる可能性があるという点です。腸内細菌は、ただ食べ物を分解しているだけではなく、体にとって意味のある形に変換しているのかもしれません。
もちろん、この研究だけで「甘いものを食べても大丈夫」と言えるわけではありません。砂糖の摂りすぎが体に負担をかけることは変わらないと思います。それでも、腸内環境を整えることが、食べたものの影響を左右する可能性があるという視点は、とても大切だと感じました。
発酵食品を日々の食事に取り入れる意味も、そこにあるのかもしれません。味噌汁、納豆、漬物、ヨーグルトのような食品を続けることは、単に「体に良さそう」だからではなく、腸の中で働く微生物の環境を支えることにつながる可能性があります。
同じ砂糖でも、腸の中で何が起きるかによって、体への影響が変わる。今回の研究は、食事と腸内細菌の関係を、また一つ具体的に見せてくれたように思います。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。