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同じ乳酸菌でも「生きているか・加熱したか」で働きが変わる?東北大学などの研究が示した、腸細胞モデルでの違い


「生きて腸まで届く」——乳酸菌の宣伝で、よく聞く言葉だ。

一方で、「加熱された菌(死菌)にも健康に関わる働きが研究されている」という話も、近年よく耳にするようになった。生きていなければ意味がないのか、それとも死んでいても何らかの働きがあるのか。乳酸菌をめぐっては、こうした疑問がずっとつきまとってきた。

2026年3月、その問いに新しい角度から光をあてる研究が発表された。東北大学大学院農学研究科を中心に、島津製作所、伊藤園が参加した共同研究だ。論文タイトルは “Live and heat-treated Lactiplantibacillus plantarum induce distinct metabolic and immune responses in intestinal epithelial cells”、査読付き学術誌 iScience に掲載された(2026年3月31日オンライン掲載、DOI: 10.1016/j.isci.2026.115516)。

研究が示唆したのは、シンプルだが興味深い結果だ。同じ乳酸菌でも、生きたまま(生菌)か加熱処理された状態(不活化菌)かによって、腸細胞モデルで見られる反応が異なる可能性がある——というものだ。

「生菌か死菌か」という長年の議論に対し、「どちらが良いかではなく、それぞれ違う働きをするのかもしれない」という新しい見方を投げかける研究といえる。

この記事について:本記事は研究内容を紹介するものであり、特定の食品・乳酸菌・サプリメントの効果を保証するものではありません。今回の研究は腸細胞モデル(培養細胞)を使った実験であり、人が食べた場合に同じ効果が得られると確認されたものではありません。

研究の背景――生菌か、死菌か

まず、いくつかの言葉を整理しておきたい。

プロバイオティクスとは、生きたまま腸に届いて健康に関わる働きが期待されるとされる微生物のこと。ヨーグルトや乳酸菌飲料でおなじみだ。

一方、ポストバイオティクスは、加熱などで不活化された菌や、菌がつくり出した成分を指す。生きていなくても健康に関わる働きをする可能性が研究されており、近年注目が高まっている。

これまで「生菌が良いのか、死菌でも良いのか」という議論は数多くあった。しかし、まったく同じ菌を使って、生きた状態と加熱した状態を同じ条件で直接比べた研究は多くなかった。今回の研究は、その比較を精密な実験で行った点に大きな意味がある。

マイクロ流体デバイスという精密な実験装置

研究チームが使ったのは、「マイクロ流体共培養デバイス」という特殊な実験装置だ。

これは、ごく小さな流路の中で、腸の上皮細胞(腸の表面をおおう細胞)と乳酸菌を一緒に培養できる装置だ。本物の腸の中に近い環境を、人工的に再現できる。

通常、生きた細菌と腸の細胞を一緒に培養するのは難しい。細菌が増えすぎて細胞が傷んでしまうためだ。しかしこの装置では、腸細胞どうしの結びつき(タイトジャンクションと呼ばれる細胞間の密着構造)を保ったまま、生きた乳酸菌と腸細胞を共培養することに成功した。

研究チームは、細胞の電気抵抗を継続的に測定することで、腸のバリアが壊れていないことを確認しながら実験を進めた。生きた菌を使った精密な腸モデル実験——これが今回の研究を支えた技術だ。

マイクロ流体デバイス上で腸の上皮細胞と乳酸菌を共培養する精密な実験

生菌は「代謝」に、不活化菌は「免疫」に関わる反応の違いが見られた

この実験で使われたのは、Lactiplantibacillus plantarum(ラクティプランティバチルス・プランタルム)という乳酸菌だ。漬物や発酵食品によく見られる、植物由来の乳酸菌として知られている。

今回の実験条件では、生菌と不活化菌で、腸細胞モデルの反応が異なることが示唆された。

生きた乳酸菌(生菌)では、腸の細胞の代謝プロセスに関わる変化が見られた。細胞のエネルギーのやりとりや物質の処理など、代謝に関連した動きに影響していた可能性がある。

一方、加熱処理された乳酸菌(不活化菌)では、腸の免疫に関わる反応の変化が見られた。免疫関連の反応に着目した解析で、生菌とは異なる傾向が観察されたということだ。

同じ菌でも、生きているか・加熱されているかで、異なる方向の反応が腸細胞モデルで観察された。これは「生菌と死菌のどちらが優れているか」ではなく、「両者は異なる役割を持ちうる」可能性を示唆する結果だ。

「使い分け」という新しい視点

この発見が持つ意味は、とても実用的だ。

これまでは「生きて腸まで届く」ことが乳酸菌の価値の中心のように語られてきた。しかし今回の研究は、加熱された菌にも独自の働きがある可能性を、同じ菌の比較で示唆した。

研究チームは、「代謝に関わる反応や免疫関連の反応といった着目点に応じて、乳酸菌を生菌または不活化菌として使い分ける」という新しい視点を提案している。

たとえば、代謝に関わる働きを期待するなら生菌を、免疫に関わる働きを期待するなら不活化菌を——というように、目的に応じて菌の状態を選ぶ。そうした製品設計が、将来的に可能になるかもしれない。

これは、機能性食品やサプリメントの開発において、新しい選択肢を広げる知見だ。ただし、これはあくまで腸モデルを使った細胞レベルの研究であり、人間が食べたときに同じ効果が得られると確定したわけではない。実際の応用には、さらなる研究が必要になる。

目的に応じて生菌・不活化菌を使い分ける時代が来るかもしれない

発酵食品を食べる私たちにとっての意味

この研究は、発酵食品を日常的に食べる私たちにも、興味深い視点を与えてくれる。

味噌、醤油、漬物、ヨーグルト——発酵食品には、生きた乳酸菌だけでなく、加熱や時間の経過で不活化した菌も多く含まれている。たとえば味噌汁は加熱して食べることが多いし、加熱殺菌された乳酸菌飲料もある。

これまで「加熱したら菌が死ぬから意味がない」と考えられがちだった。しかし今回の研究を踏まえると、加熱された菌にも、生きた菌とは異なる反応が腸細胞モデルで見られたという点は興味深い。生きていても、加熱されていても、それぞれに違いがあるのかもしれない。ただし、これはあくまで培養細胞での観察であり、人が食べたときに同じことが起きると示されたわけではない。

もちろん、発酵食品そのものを使った研究ではないため、「味噌汁を飲めば免疫が上がる」と短絡的に結びつけることはできない。ここは慎重に切り分けて考える必要がある。

それでも、「生菌か死菌か」という二者択一ではなく、「どちらにも意味がある」という見方は、発酵食品の楽しみ方を少し広げてくれるように思う。生きた菌を意識するのもいいし、加熱した発酵食品を楽しむのもいい。どちらも、腸との対話の一部なのだ。

日本の発酵研究が積み重ねる、ひとつの成果

今回の研究は、東北大学という日本の大学が中心となり、計測機器メーカーの島津製作所、飲料メーカーの伊藤園という産学の連携で生まれた成果だ。

精密な実験装置を使い、これまで難しかった「生きた菌と腸細胞の共培養」を実現したことは、技術的にも興味深い前進だ。日本は伝統的に発酵食品の文化が豊かな国だが、その科学的な研究においても、発酵科学の重要な研究の一つを生み出している。

乳酸菌という、私たちにとって最も身近な微生物。その菌に対する腸細胞モデルの反応が、生きているか加熱されているかで違って見えたという結果は、発酵の奥深さを改めて感じさせてくれる。小さな菌の世界には、まだまだ解き明かされていない仕組みが眠っているのだろう。


生きていても、加熱されていても、菌はそれぞれに違う反応を見せた。「生か死か」ではなく、「どんな違いがあるか」へ。問いの形が、少し変わった。


Toshiより

今回の研究を読んで、乳酸菌は「生きているから良い」「加熱したら意味がない」と単純には分けられないのだと感じました。味噌汁のように加熱して食べる発酵食品にも、生きた菌とは違う形で注目できる部分があるのかもしれません。

ただし、この研究は腸細胞モデルでの実験であり、味噌汁を飲めば免疫が上がる、という話ではありません。そこはきちんと分けて考えたいと思います。

生きた菌も、加熱された菌も、それぞれにまだ分かっていない働きがある。発酵食品を毎日の食事として楽しみながら、こうした研究にも少しずつ目を向けていきたいです。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。