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同じ「乳酸菌」でも、株によってこんなに違う|27株を調べたゲノム・機能研究
ヨーグルトやサプリメントで、よく目にする「乳酸菌」という言葉。
私たちはつい、乳酸菌をひとつの菌のように思ってしまう。しかし実際には、乳酸菌は非常に多くの種類をふくむ、大きなグループの呼び名だ。しかも、同じ種類の中でも、「株(かぶ)」が違えば、性質が変わることがある。
株というのは、同じ種類の菌のなかの、いわば個体のようなものだ。人間でいえば、同じ地域に暮らす人どうしでも一人ひとり違うように、同じ菌種の中にも、少しずつ性質の異なる株が存在する。
その違いを、性質と遺伝子の両面から詳しく調べた原著研究が、学術誌「Frontiers in Microbiology」に2026年に発表された。韓国大学(Korea University)の研究チームによるものである。
今回はこの研究を手がかりに、「乳酸菌」という言葉の内側にある多様性をのぞいてみたい。
乳酸菌は、身近なところに暮らしている
そもそも乳酸菌は、特別な場所だけにいる菌ではない。今回の27株も、人の口の中や、身近な食品から集められたものだ。
乳酸菌は、ヨーグルトや漬物、チーズといった発酵食品はもちろん、野菜や乳、そして私たちの体の表面など、さまざまな場所に暮らしている。糖を分解して乳酸をつくる、という共通の特徴を持ちながら、種類や株の顔ぶれは、きわめて多様だ。
だからこそ、いろいろな場所から菌を集め、その性質を同じ条件で比べることには意味がある。まだ知られていない性質を持つ株が、案外身近なところにいるかもしれないからである。
27株の乳酸菌を、集めて比べた
研究チームは、人の口の中や食品から、27株の乳酸菌を分離して集めた。
そのなかには、ラムノーサス、カーバタス、ロイテリ、パラカゼイといった乳酸菌や、ラクティス乳球菌などがふくまれる。もっとも多かったのは、ラムノーサスの仲間だった。いずれも、ヨーグルトやサプリメントで名前を見かけることのある菌の仲間である。
チームは、これらの株を同じ条件で並べて、いくつかの性質を測定した。ばらばらに研究されてきた菌を、同じものさしで比べてみる。そうすることで、株どうしの違いが、くっきりと見えてくる。
株ごとに、大きく違っていた
調べられたのは、おもに次のような性質である。
一つは、酸への耐性。もう一つは、胆汁への耐性だ。口から入った菌が、胃の酸や、腸に流れ込む胆汁にどれだけ耐えられるか。これは、菌が消化管を生きて通過できるかどうかに関わる性質として調べられる。
さらに、腸の細胞のモデルにどれだけくっつくか(接着性)、そして、ほかの菌の増殖をおさえる力(抗菌活性)も測定された。
結果は、はっきりしていた。これらの性質は、株のあいだで大きくばらついていたのである。たとえば接着性では、ロイテリの株が最も高い値を示した。同じ「乳酸菌」とまとめて呼ばれていても、一株ずつ見れば、得意なことも、性質もそれぞれ違っていた、ということだ。
それぞれの性質は、何を意味するのか
これらの性質が調べられるのには、理由がある。
酸や胆汁への耐性は、口から入った菌が、胃や腸という厳しい環境をくぐり抜けられるかどうかの、一つの目安になる。生きたまま腸に届くことを期待するなら、まずその通過に耐えられることが前提になる、という考え方だ。
接着性は、菌が腸の内側にとどまりやすいかどうかに関わる性質として調べられる。抗菌活性は、ほかの菌との競争のなかで、望ましくない菌の増殖をおさえる方向に働く可能性として注目される。
ただし、これらはいずれも、実験室や細胞のモデルで測られた「性質」である。ある性質の値が高いからといって、食べた人の体で必ず良い結果につながる、とまでは言えない。あくまで、候補を見きわめるための、入り口の指標にすぎない。
ゲノムに見えた、違いの手がかり
では、その性質の違いは、どこから来るのか。研究チームは、菌の遺伝子(ゲノム)も解析した。
すると、菌によっては、細胞の壁をつくり変える働きや、細胞の表面のタンパク質を仕上げる働き、菌自身を溶かす酵素の働きなどに関わる遺伝子のグループが、多くそろっていることが分かった(galE、lgt、ftsW といった遺伝子が挙げられている)。
また、ほかの菌をおさえる抗菌活性については、特定のタイプの物質をつくり出す遺伝子のまとまりとの関連が示された。
つまり、株ごとの性質の違いの背景には、それぞれが持つ遺伝子の違いがあった、ということである。見た目には同じ乳酸菌でも、設計図の中身が違えば、できることも変わってくる。菌の性質を、目に見える働きと、その下にある遺伝子の両面から結びつけて理解しようとする。それが、こうしたゲノム解析の狙いである。
「菌株レベル」で見ることの意味
この研究が教えてくれるのは、乳酸菌を「菌株のレベル」で見ることの大切さだ。
「乳酸菌入り」と書かれていても、それがどの株で、どんな性質を持つのかまでは、名前だけでは分からない。同じ菌種でも、株が違えば、酸への強さも、腸へのくっつきやすさも異なりうる。
だからこそ、研究の世界では、菌を種の名前だけでなく、株の単位で細かく特定し、その性質を一つずつ確かめていく。今回のように、多くの株を同じ条件で比べる研究は、その基礎となる作業といえる。
この視点は、私たちが商品を選ぶときの心構えにもつながる。「乳酸菌」や「〇〇菌配合」という言葉だけで中身を判断するのではなく、どんな株が、どんな根拠にもとづいて使われているのかに目を向ける。派手な言葉に頼りすぎず、落ち着いて情報を読む姿勢が、こうした研究からも見えてくる。
まだ「候補」の段階であること
ここは、はっきりとお伝えしておきたい。
今回調べられた酸耐性や接着性、抗菌活性といった性質は、プロバイオティクスの「候補」を選ぶときに調べられる項目である。ただし、これらはあくまで試験管や細胞モデルで測られた性質であって、人が食べたときに健康上の効果が得られると確かめたものではない。
有望な性質を持つ株が見つかったとしても、それが実際に人の役に立つのか、安全に使えるのか、どれくらいの量が必要なのかは、これから一つずつ確かめていく必要がある。「候補」は、あくまで候補である。期待されている可能性と、人で確認された事実は、分けて考えたい。
地道な積み重ねの、一歩として
今回の研究は、劇的な健康効果を示したものではない。多くの株を集め、同じ条件で性質を測り、遺伝子と照らし合わせる。そうした地道な作業の積み重ねが、将来、より確かな知識につながっていく。
どの株が、どんな性質を持ち、その背景にどんな遺伝子があるのか。こうした基礎的な地図が少しずつ広がることで、研究者は、次にどの株を、どのように調べればよいかの見当をつけやすくなる。派手さはないが、こうした一歩の積み重ねこそが、発酵と菌の理解を前へ進めていく。
ひとくくりの言葉の、奥にあるもの
「乳酸菌」という便利な言葉は、多くの菌をまとめて指している。その便利さの裏で、私たちは一株ずつの個性を、つい見落としがちだ。
しかし、その内側には、酸に強い株もあれば、腸によくくっつく株もあり、ほかの菌をおさえる株もある。多様な顔ぶれが、それぞれの性質を持って存在している。
次に「乳酸菌」という言葉を目にしたときには、その一言の奥に、こうした一株ずつの違いが広がっていることを、少しだけ思い浮かべてみたい。
ひとくくりの名前の中に、数えきれないほどの個性が隠れている。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。