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発酵食品と過敏性腸症候群(IBS)|16件の臨床試験をまとめたメタ解析が示したこと


この記事について:本記事は、発酵食品と過敏性腸症候群(IBS)に関する研究(メタ解析)を紹介するものです。特定の食品が病気を治す・予防すると示すものではなく、医療上の助言でもありません。お腹の不調が続く場合や、診断・治療については、自己判断せず、医師などの専門家に相談してください。


お腹の調子が、なかなか安定しない。

腹痛や、下痢と便秘のくり返し、お腹の張り。検査で大きな異常が見つからないのに、こうした症状が続く状態は、「過敏性腸症候群(IBS)」と呼ばれることがある。

この不調と、発酵食品との関わりを調べた研究を、統合して分析したメタ解析が、学術誌「Frontiers in Nutrition」に2024年に発表された。中国の紹興人民病院の研究チームによるものである。

今回はこの研究を手がかりに、発酵食品とお腹の不調をめぐる、いまの研究の到達点を整理してみたい。

過敏性腸症候群(IBS)とは

まず、言葉の整理をしておきたい。

過敏性腸症候群は、お腹の痛みや不快感に、便通の乱れ(下痢や便秘など)をともなう状態を指す。命に関わるものではないとされる一方で、通勤や外出のたびにお腹が気になるなど、日々の生活の質に影響することが知られている。決してめずらしいものではなく、多くの人が経験しうる、身近な不調の一つである。

原因は一つではなく、腸の動きや感じ方、食事、ストレス、腸内細菌など、さまざまな要因が関わると考えられている。診断や治療は医療の領域であり、症状がある場合は、まず医療機関で相談することが基本になる。

その前提のうえで、食事という身近な要素と、この不調との関わりが、研究の対象になってきた。

なぜ、発酵食品に注目が集まるのか

IBSをめぐっては、腸内細菌の関わりが指摘されてきた。腸の中の菌のバランスや、その菌が生み出す成分が、症状となんらかの形で関係している可能性が、研究されている。

発酵食品には、乳酸菌などの微生物や、それらが発酵の過程でつくり出した成分が含まれる。そこで、発酵食品をとることが腸内環境に働きかけ、お腹の不調と関わるのではないか。そうした発想から、研究が積み重ねられてきた。

ただし、これはあくまで研究の出発点となる仮説であって、仕組みのすべてが解明されているわけではない。発酵食品が腸にどう作用するのか、その全体像は、まだ分かっていない部分が多く残されている。

16件の臨床試験を、統合して分析

今回のメタ解析は、発酵食品とIBSに関する「ランダム化比較試験(RCT)」を集めて、まとめて分析したものだ。

ランダム化比較試験とは、参加者を偶然によってグループ分けし、ある食品をとるグループと、そうでないグループを比べる方法である。人を対象にした研究のなかでも、比較的信頼性が高いとされる方法だ。

メタ解析とは、そうした複数の研究の結果を統合し、全体としてどんな傾向があるかを見る手法をいう。今回は、16件の試験、あわせて1,264人のIBS患者のデータが分析された。

一つの研究だけでは、たまたまの結果かもしれない。複数の研究を束ねて見ることで、より安定した傾向をとらえようとする。それが、メタ解析の狙いである。

分かったこと、分からなかったこと

分析の結果、発酵食品をとることは、IBSの症状の緩和と関連していた、と報告された。とくに、ヨーグルトなどの発酵乳製品で、そうした関連が見られたという。

ただし、ここが大切なところだが、すべての指標で改善が見られたわけではない。腹痛のスコアや、お腹の張り(膨満感)のスコアでは、はっきりとした差は確認されなかった。

つまり、「発酵食品をとれば、IBSのあらゆる症状が和らぐ」という単純な結果ではない。ある面では好ましい関連が見られ、別の面では差がなかった。研究が示したのは、そうした入り混じった姿である。

慎重に読み解く

さらに重要なのが、研究チーム自身が結果に付けた注意である。

論文は、「現在の証拠の制限を踏まえると、この結論は慎重に解釈すべきだ」と明記している。統合された研究の数や質には限りがあり、そこから言えることには限界がある、というわけだ。

限界の一つは、集められた研究どうしのばらつきである。使われた発酵食品の種類も、対象となった人も、症状の測り方も、研究によって異なる。性質のそろっていない研究を束ねているため、そこから一つのきれいな結論を引き出すことには、なおさら慎重さが求められる。

「関連していた」というのは、「食べれば治る」という意味ではない。あくまで、集められた研究のなかで、そうした傾向が見えた、という段階である。発酵食品は薬ではなく、治療の代わりになるものでもない。

科学の情報に接するときは、こうした「どこまで言えて、どこからが未確認か」の線引きを、大切にしたい。期待できる可能性と、確定した事実とは、分けて受け止める必要がある。

日々の食事の中で

では、いまの私たちにできることは何だろう。

はじめに確認しておきたいのは、IBSの症状の感じ方も、合う食事も、人によって大きく異なるということだ。だからこそ、万人に効く唯一の答えを探すより、自分に合うやり方を、時間をかけて見つけていく姿勢が現実的だといえる。

そのうえで、一つは、発酵食品を含めて、食事全体のバランスを意識することだ。特定の食品に強い効果を期待して大量にとるより、いろいろな食材を、無理のない範囲で取り入れる。その方が、長く続けやすい。

同時に、注意も必要だ。味噌や漬物、キムチには塩分の多いものがあり、加糖のヨーグルトには糖分が多い商品もある。「お腹によさそう」というイメージだけで量を増やすのではなく、自分の体調に合うかどうかを見ながら選びたい。

また、忘れてはいけないのが、個人差である。発酵食品や食物繊維の多い食品が、人によっては、かえってお腹の張りや不快感を強めることもあると言われている。ある人に合う食べ方が、別の人にも合うとは限らない。自分の体の反応をよく見ながら、合わないと感じるものは無理にとらない。そうした調整もまた、大切になる。

そして、くり返しになるが、お腹の不調が続くときは、食品で対処しようとする前に、医療機関で相談することが大切である。発酵食品は、あくまで日々の食事の一部として楽しむものだ。

お腹の不調と、発酵食品

発酵食品とお腹の不調の関係は、いまも研究が進んでいる途中にある。

好ましい関連を示す報告もあれば、差が見られない面もある。証拠には限界があり、結論は慎重にとらえるべきだとされている。分かってきたことと、まだ分からないことが、同時に存在している分野だといえる。

食べ物は、日々の暮らしを支える大切なものだ。しかし、それだけで、お腹の不調のすべてを解決できるわけではない。食事にできることの範囲を正しく知ることが、かえって、発酵食品との健やかな距離を保たせてくれるのだと思う。

それでも、発酵食品の価値がなくなるわけではない。味噌汁の香り、ヨーグルトの酸味、漬物の歯ごたえ。長く親しまれてきたおいしさや、食文化としての豊かさは、健康効果の有無とは別に、確かに存在している。大きな効能をうたわなくても、発酵食品には、日々の食卓を支えてきた十分な魅力がある。

華やかな効果をうたう言葉に飛びつくのではなく、研究が示す範囲を、そのままの大きさで受け止める。そうした落ち着いた姿勢で、発酵食品と付き合っていきたい。


食べ物にできることと、医療に任せるべきこと。その線引きを見失わないでいたい。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。