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スーパーのぬか漬けコーナーで、なぜか手が止まった。


納豆を買いに行ったついでに、漬物コーナーをぶらぶらした。

特に何か買うつもりはなかった。ただ、前回の記事で「ぬか漬けでも見てみようか」と書いたので、なんとなく足が向いた。

「ぬか床スターターセット」というものがあった

漬物が並ぶ棚の端に、ちょっと違う雰囲気の商品があった。

「はじめてのぬか床セット」と書かれた袋。中にはすでに発酵済みのぬか床が入っていて、野菜を切って入れるだけで漬けられるという。

1,200円くらいだったと思う。

「ぬか漬けって、自分で作れるものなのか」と初めて思った。漬物は買うものだと、なんとなくずっと思っていた。

なぜか10分くらい眺めてしまった

買うかどうかをずっと迷った。

妻に「ぬか床やってみようかな」と言ったら、きっと「また急に何か始まった」と思われる。でも、なんか気になる。袋の裏の説明書きを読んだら「毎日かき混ぜることで育てていく」と書いてあった。

育てる、という言葉が引っかかった。

食べ物を育てる、という感覚が、自分にはほとんどなかった。

その日は買わなかった

結局、その日は納豆だけ買って帰った。

でも、家に帰ってからも「ぬか床」のことが頭の片隅にあった。調べてみると、ぬか漬けは乳酸菌が豊富で、腸活にも効果的だという。しかも毎日かき混ぜることで菌のバランスが変わり、家ごとに違う味になるらしい。

「なんか、生き物みたいだな」と思った。

数日後、買いに戻った

週末、また同じスーパーに行って、ぬか床セットを手に取った。

今度は迷わず籠に入れた。

家に帰って妻に見せたら、「あ、やってみるの?面白そう」と意外にも好反応だった。拍子抜けした。

さっそく付属の説明書通りに野菜を仕込んだ。きゅうりと大根。冷蔵庫の野菜室に入れて、「明日の夜には食べられる」と書いてあった。

なんだか、少しそわそわした。

翌日の夜、食べてみた

漬けてから約24時間後。

冷蔵庫から取り出して、水で洗って、切った。断面から少し塩っぽいにおいがした。ぬかの匂いもある。「これ、本当に食べられるのか」と一瞬思いながら、一口食べた。

酸味と塩気が、ちょうどいい。きゅうりのシャキシャキ感が残りつつ、中まで味が入っている。「これ、うまいぞ」と声が出た。

スーパーで売っているぬか漬けと、何が違うのか。自分で漬けたという気持ちのせいもあるだろう。でも確かに、何かが違う気がした。素材の旨みが、そのまま残っている感じ。添加物が入っていない食べ物の、素朴なおいしさだ。

ぬか床を「育てる」感覚

最初の1週間は、毎晩かき混ぜることを楽しんだ。

ぬか床の状態が、日に日に変わっていく。においが変わる。色が少し変わる。菌が活発に働いている証拠なのだろう。

「生き物みたいだな」と最初に思ったのは正しかった。本当に生き物だ。かき混ぜることで、酸素が入り、菌のバランスが整う。手を入れると、温度が変わる。ぬか床は、こちらの状態にも敏感に反応する。

仕事から帰って、疲れた体でもぬか床を混ぜる。その時間が、なんとなく心が落ち着く時間になっていた。

ぬか床が教えてくれたこと

ぬか床を始めて、改めて「発酵」というものを意識し始めた。

発酵は、人間がコントロールするものではない。菌に環境を整えてやること、それだけだ。温度と水分と酸素。それを整えれば、あとは菌が勝手にやってくれる。

何かを「急かす」のではなく、「待つ」ことが必要だ。

ジョギングも同じかもしれない。走れる距離を焦って伸ばすのではなく、体の準備を整えて、少しずつ伸びるのを待つ。その感覚と、ぬか床を育てる感覚が、どこか重なって見えた。

1ヶ月で、生活の一部になった

最初はそわそわしながら始めたぬか床が、1ヶ月もすると生活のルーティンになっていた。

朝、夜、かき混ぜる。野菜を入れる。翌日取り出して食べる。それだけのことが、当たり前の習慣になっていた。

「続けること」の意味を、ぬか床から教わった気がする。

難しいことではない。ただ、毎日手を入れるだけでいい。それだけで、ぬか床はちゃんと答えてくれる。

妻の反応が意外だった話

ぬか床セットを買って帰った日のことを書く。

家に帰って袋を出したとき、「これ何?」と妻に聞かれた。「ぬか床を始めようと思って」と答えた。

「へえ、面白そう」というのが妻の反応だった。反対されるかと思っていたので、拍子抜けした。「においが気になるかもしれないけど、冷蔵庫に入れていいの?」と聞くと、「野菜室の端っこなら」と言ってくれた。

最初の漬物ができた夜、妻にも食べてもらった。「思ったよりおいしい」と言ってくれた。それが少し嬉しかった。自分で作ったものを誰かにおいしいと言ってもらえる。その感覚が、続けるモチベーションの一つになった。

今は妻もたまにぬか漬けを食べる。「今日のきゅうり、よく漬かってるね」と言われると、なんとなく誇らしい気分になる。

ぬか床を始めるために最低限必要なもの

これからぬか床を始めようと考えている方のために、最低限必要なものを書いておく。

まず「ぬか床」そのもの。スーパーや通販で「発酵ぬか床」や「熟成ぬか床」という名前で売っている。すでに乳酸菌が活性化しているものを選ぶと、すぐに漬けられる。

次に容器。ぬか床が入るサイズのタッパーや袋。市販のぬか床はパック入りになっているものが多く、そのまま使える。

最後に野菜。きゅうり、大根、人参があれば十分だ。洗って切って入れるだけだ。

費用は最初の一回で1,500〜2,000円程度。その後は野菜代だけかかる。補充用のぬかを月に一度買っても、一袋200円程度だ。健康のための投資として考えると、かなり安い。

ぬか漬けを食べ続けた1ヶ月の変化

最初のきゅうりを食べてから1ヶ月、毎日ぬか漬けを食べた。

最初の1週間は「自分で作ったものがちゃんとおいしい」という驚きが続いた。食べるたびに、少し嬉しかった。

2週目になると、少し慣れてきた。でも飽きるというより、「これが当たり前」になってきた感覚だ。食事の中にぬか漬けがあることが普通になった。

3週目に、気づいたことがあった。ぬか漬けがない食事が、少し物足りなく感じるようになっていた。塩気というより、「この酸味とこの旨み」が足りない感じ。体が発酵食品の味を求めるようになった。

1ヶ月後、腸の調子が変わった気がした。劇的ではない。でも「なんとなくお腹がすっきりしている」という感覚が増えた。これが乳酸菌の効果なのか、プラセボなのかはわからない。でも続ける理由にはなった。

「始める」ことの難しさと、始めてしまうことの価値

ぬか床を買うまで、何日も迷った。

「続けられるかな」「管理が大変そう」「どうせ途中で飽きるかも」。そういう声が頭の中でした。

でも、始めてみないとわからない。続けられるかどうかは、やってみた後でしかわからない。迷っている時間の方が、もったいなかった。

ぬか床を1,200円で買って、きゅうりを漬けて食べた。その体験が、今の発酵食品との関わりの入口になった。あの日スーパーで「やっぱりやめよう」と棚に戻していたら、今の自分はなかった。

「始めること」の小ささが、後になって「続けること」の大きさに変わる。1,200円のぬか床スターターセットが、今の私の食生活を作ったのだ。

ぬか漬けを始める前に知っておきたかったこと

今から始める人に、最初の頃の私が知りたかったことを伝えておきたい。

まず、においは最初ほど気にならなくなる。始めたばかりのぬか床は独特のにおいがある。でも慣れてくる。「ぬか床のにおい」として受け入れられるようになる。

次に、最初から完璧を目指さない方がいい。漬け時間が長すぎて塩辛くなることもある。かき混ぜを忘れて状態が変わることもある。でもそれも勉強だ。失敗から学んで、次はうまくいく。

そして、毎日かき混ぜることを「習慣」にしてしまうのが一番楽だ。歯を磨くのと同じように、「毎日やること」にしてしまう。考えずにやる習慣は、続きやすい。


次回:初めて漬けたぬか漬けを食べた感想と、毎日かき混ぜる生活が始まった話。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。