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ぬか床を始めたら、毎日の暮らしが変わった。気づいたら、すっかりはまっていた。


やってしまった。ぬか床を始めてしまった。

ぬか漬けに興味を持ち始めたとき、まず考えたのが「ぬかをどこで手に入れるか」だった。

信頼できるぬかを選ぶところから

スーパーやデパートでも米ぬかは売っている。でも、少し気になることがあった。

米を育てる過程で使われる農薬や化学肥料、そして加工時の添加物。健康のために始めるぬか漬けに、そういったものが入っているのは少し違う気がした。

そこで、お世話になっている福井県の創業1914年のお味噌屋さんに問い合わせてみた。丁寧な返事が返ってきて、信頼のおける米ぬかも扱っているとわかった。迷わず取り寄せた。

味噌も、ぬかも、同じ福井のお店から。自分の口に入るものは、信頼できるところから、という考えが自然と根付いてきた。

タッパ選びにもこだわった

容器はビバホームで探した。

ぬか床は塩分が強い。塩に負けない素材の、しっかりしたタッパが必要だ。実際に手に取って確かめながら、ぬか床を育てるのにちょうど良いサイズのものを選んだ。

端材と昆布と唐辛子で、ぬか床を育てた

取り寄せたぬかをタッパに入れ、塩を加えて混ぜる。そこに唐辛子と出汁昆布を加えた。

唐辛子は防腐と風味のため。昆布は旨味を引き出すため。どちらも伝統的なぬか床作りに使われてきた食材だ。

そしてもうひとつ大事なのが「端材」だ。

端材とは、野菜の葉や皮など、ふだん捨ててしまう部分のこと。にんじんの皮、大根の葉、キャベツの外葉。これをぬか床に埋めて、1週間ほどかけて発酵を促す。最初から野菜を漬けるのではなく、まずぬか床を育てる期間が必要なのだ。

1週間後にそっとぬかをかき混ぜると、発酵の香りがふわっと立ち上った。「ちゃんと生きてる」と思った瞬間だった。

季節で変わる、ぬか床の居場所

ぬか床は温度管理が大切だ。

夏は気温が高く発酵が進みすぎるので、冷蔵庫の中へ。冬は発酵がゆっくりになるので、玄関に置いている。家の中でいちばん涼しい場所だ。

「毎日かき混ぜなければならない」とよく言われるが、冷蔵庫に入れているときはそこまで神経質にならなくても大丈夫だと気づいた。ぬか床の状態を見ながら、自分のペースで向き合っている。

手でかき混ぜると、手も変わる

ぬか床は、素手でかき混ぜる。

これが最初は少し躊躇ったが、慣れると気持ちいい。ぬかの温度と感触で、床の状態がなんとなくわかるようになってくる。

そしてもうひとつ気づいたことがある。手がきれいになるのだ。

米ぬかには、ビタミンEやフェルラ酸など、肌に良い成分が豊富に含まれている。毎日かき混ぜているうちに、手の荒れが気にならなくなっていた。ぬか床は、野菜だけでなく、手も育ててくれていた。

実際に試して、おいしかった野菜と漬け時間の目安

ぬか床を始めてから、いろいろな野菜を漬けてきた。せっかくなので、実際に試してみてよかったものをまとめてみる。

きゅうり:ぬか漬けの定番。冷蔵庫で12〜18時間が食べ頃。シャキシャキした食感と程よい酸味のバランスが絶妙で、初めてぬか漬けに挑戦する人には最初にこれを勧めたい。

大根:少し厚めに切って24時間ほど。水分が多いぶん旨味が染み込みやすく、食べ応えがある。ぬか床の塩加減がちょうど良くなってきたとき、大根漬けの味がガラッと変わる瞬間がある。

にんじん:固い野菜なので、薄切りにして冷蔵庫で1日〜1日半。甘みが引き出されて、お弁当の隙間にも入れやすい。

セロリ:意外な一品。独特の風味がぬか床と馴染んで、箸休めにちょうどいい。12時間程度でOK。

大切にしていることがひとつある。漬ける野菜によってぬか床の状態が変わるので、定期的に少量をなめて塩分や酸味を確認することだ。塩が足りなければひとつまみ補う。ただそれだけで、ぬか床はどんどん育っていく。

「正解」はひとつではない。自分の舌で確かめながら育てていく。その過程がたまらなく面白い。


次回:「腸活」ってそもそも何なのか、ちゃんと調べてみた。

ぬか床を「失敗」した経験もある

正直に書く。最初の1ヶ月は、何度も「これで大丈夫か」と不安になった。

表面に白いものが浮いた。産膜酵母と呼ばれるもので、ぬか床が空気に触れることで表面に張る酵母菌だ。調べると「かき混ぜれば問題ない」とわかった。でも最初に見たときは「カビが生えた」と焦って、少し捨ててしまった。

塩を入れすぎて、ぬか漬けが塩辛くなったこともある。水分が増えすぎてべちゃべちゃになったこともある。そのたびに調整する。ぬか床は完璧にはならない。でも少しずつ「自分のぬか床」になっていく感覚がある。

失敗しながら覚えていくことが、ぬか床との付き合い方だと気づいた。

ぬか床が教えてくれた「待つこと」

ぬか床は、急かせない。

最初の2週間は端材を漬けて発酵を促す準備期間だ。この間、食べられるものは何もできない。ただ毎日かき混ぜて、待つだけ。現代の生活の中で、「ただ待つだけ」の時間はほとんどない。でもぬか床と向き合うとき、その時間が必要だと身をもって知った。

野菜を漬けてからも、食べ頃になるまで半日から1日かかる。「今すぐ食べたい」と思っても、時間が来なければおいしくならない。その待つ時間の中で、何かが育っている。

ジョギングも発酵食品も、結果が出るまでには時間がかかる。「今日やったから今日変わる」ではない。続けた時間の分だけ、少しずつ体が変わっていく。ぬか床を育てながら、そのことを改めて実感した。

ぬか漬けと腸の関係

ぬか漬けが腸にいいと言われる理由を、少し調べた。

ぬか漬けには乳酸菌が豊富に含まれている。特に植物性乳酸菌は動物性乳酸菌(ヨーグルトなど)より胃酸に強く、腸まで届きやすいと言われている。腸に届いた乳酸菌は、腸内環境を整え、善玉菌が育ちやすい環境を作る。

また、ぬか漬けにはビタミンB1が豊富だ。きゅうりや大根をぬか漬けにすると、生のまま食べるより数倍ものビタミンB1が増えるという。ぬかに含まれるビタミンB1が野菜に移行するためだ。疲れにくくなったと感じていた体の変化が、ここにも関係しているかもしれない。

腸が整うと、全身の状態が変わる。体が軽くなる。気持ちが安定する。ぬか床を始めてから4ヶ月が経ち、体感としてそれが少しずつわかるようになってきた。

ぬか床は、暮らしの一部になった

今、ぬか床は暮らしに欠かせないものになっている。

毎日かき混ぜる時間は3〜5分。その短い時間が、一日の中の「自分のための時間」になっている。仕事のことでも家のことでもなく、ただぬか床と向き合う時間。

冷蔵庫を開けるたびにぬか床が目に入る。「今日も元気かな」と思いながら蓋を開ける。生き物を育てているような感覚が、毎日の食事をより豊かにしてくれている。

こんなに続くとは思っていなかった。でも、やめたいとも思わない。ぬか床は、私の暮らしの中にすっかり根付いた。

最初の「やってしまった」という感覚が、今では「始めて良かった」に変わっている。ぬか床は手間がかかるが、その手間の中に生活のリズムが生まれる。かき混ぜながら「今日のぬか床はどうだろう」と考える時間が、一日の中の小さな楽しみになっている。50代になって、こういう地味な喜びが増えたことを、素直に嬉しいと思う。ぬか漬けは発酵食品の中でも特に「自分で育てる」感覚が強い。その感覚が、50代の毎日に小さな充実感を与えてくれている。手間はかかるが、その手間が楽しい。これが続けられる一番の理由だと思っている。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。