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私のぬか床にいる菌を、大学が研究していた。塩分濃度と乳酸菌の意外な関係。


きゅうり・にんじん・大根・なす、仲良し野菜たち

毎朝、ぬか床をかき混ぜている。

素手で、底から丁寧に。 「この中に何十億もの菌がいる」と思いながらやっているが、正直、どんな菌なのかよく知らなかった。

東京科学大学とぐるなびの共同研究が、その答えに近づいている。

東京科学大学×ぐるなびの共同研究とは

「ぐるなび食の価値創成共同研究」は、2016年から続く産学連携プロジェクトだ。 東京科学大学の生命理工学院が中心となり、日本の伝統発酵食品を科学的に解析している。

テーマは「ぬか漬け」「漬物」「乳酸菌」。 飲食店情報で知られるぐるなびが、なぜ大学と?と思うかもしれない。

狙いは「食の価値を科学で証明すること」だ。 日本の食文化を支える発酵食品に、どんな微生物が棲んでいるのか。 その菌が人の体にどう働くのかを、遺伝子レベルで解き明かそうとしている。

塩分濃度がぬか床の「顔ぶれ」を変える

研究が明らかにしたことの一つが、塩分濃度と微生物群集の関係だ。

ぬか床に含まれる塩の量によって、どんな菌が優勢になるかが変わる。 塩分が高いと、塩を好む特定の微生物が増える。 その菌がうま味成分のアミノ酸を生成する可能性があることも、確認されている。

これは、ぬか床をいじる者にとって見逃せない話だ。

私は長年、「塩加減は感覚で」でやってきた。 ぬか床が水っぽくなったら塩を足す、という程度の管理だった。 だがこの研究が示すのは、その塩加減が菌の世界の勢力図を決めているということだ。

味だけじゃない。 菌の種類まで変わる。

漬物の乳酸菌に「免疫を調節する力」があった

さらに注目すべき成果が、2025年4月に発表された。

東京科学大学の研究チームは、日本の漬物から分離した乳酸菌61株を調査した。 対象はLactiplantibacillus plantarum(通称 L.plantarum)とL.pentosusの2種。 どちらも、ぬか漬けや野菜漬けによく見られる乳酸菌だ。

この61株をヒトの免疫細胞に作用させたところ、株によって免疫反応がまったく異なることがわかった。 炎症を抑えるIL-10、免疫を活性化するIL-12——これらの誘導能が、株ごとにバラバラだったのだ。

なぜ同じ種類の乳酸菌でも、こんなに違いが出るのか。 チームが新たな比較ゲノム解析手法を使って調べたところ、「TagF2遺伝子」の有無が鍵を握っていることがわかった。

この遺伝子は、細菌の細胞壁構造に関わるタイコ酸の合成を制御している。 壁の作り方が違うと、免疫細胞との「会話」の仕方が変わる。 それが、免疫調節能力の差につながっているというわけだ。

この研究成果は、国際学術誌「mSystems」(2025年4月29日号)に掲載された。

仲良く手をつなぐ乳酸菌たち。ぬか床の中にはこんな菌がいる。

毎日かき混ぜている私には、他人事じゃない

研究を読んで、改めて思った。

私が毎朝かき混ぜているぬか床には、こういう菌たちがいる。 免疫を調節する力を持つ菌が、塩分濃度に左右されながら、何十億と生きている。

「ぬか床は生き物」とよく言う。 それは感覚的な言葉だと思っていたが、科学がそれを裏付けつつある。

これからは、塩加減ももう少し意識してみようと思う。 ただ「しょっぱすぎない程度」でなく、「菌が喜ぶ濃度」を探るつもりで。

答えはまだ研究の途中だ。 だが、その研究が続いているということは、科学者たちもぬか床の可能性を信じているということだろう。

まとめ|ぬか床の塩分と乳酸菌を意識するということ

ぬか床は、ただ野菜を漬けるためのものではなく、 乳酸菌をはじめとした多様な微生物が共存する発酵環境だ。

今回の研究から見えてきたのは、ぬか床の塩分と乳酸菌の関係が、味だけでなく菌の種類や働きにまで影響しているという事実だ。

塩加減ひとつで、ぬか床の状態は変わる。 それは風味の違いだけでなく、腸内環境や免疫に関わる可能性を持つ変化でもある。

ぬか漬けや発酵食品を日常に取り入れることは、特別な健康法ではない。

ただ、毎日ぬか床をかき混ぜること。 状態を見て、少し塩を足すこと。

その積み重ねが、腸内環境を整え、結果として体全体のコンディションにもつながっていく。

ぬか床は生きている。

そう感じながら手を入れることで、発酵という営みは、少しだけ深く、面白くなる。

ぬか床の塩分と乳酸菌。 この視点を持つだけで、いつもの食卓が少し変わるかもしれない。


ぬか床を長く育てることの意味

ぬか床を始めて、そろそろ1年近くになる。

最初のうちは「塩分は感覚で」と思っていた。水が多くなったら塩を足す。それくらいの管理で十分だと思っていたのだ。でも今回の研究を読んでから、その「感覚」がもう少し科学に近づいた気がしている。

塩分濃度が菌の種類を決める。うま味を生み出す菌もいれば、免疫に働きかける菌もいる。同じぬか床でも、管理の仕方次第でその中身は変わっていく。

ぬか床は育つ。それは比喩ではなく、文字通り、内部の生態系が時間とともに変化していくということだ。長く続けるほど、環境は安定し、より複雑な微生物のバランスが生まれると言われている。焦らず、毎日かき混ぜながら、ぬか床と向き合い続けることには、やはり意味があると確信している。

日本の食文化と科学のつながり

東京科学大学とぐるなびという組み合わせが、最初は意外に感じた。

飲食店情報のサービスが、なぜ大学の研究と?と思う人もいるかもしれない。しかしその狙いが「食の価値を科学で証明すること」だと知ったとき、とても納得した。

日本には、何百年も続く発酵の知恵がある。ぬか漬け、味噌、醤油、酒。どれも経験の積み重ねで受け継がれてきたものだ。その中に、どんな微生物が棲んでいるのか。それが人の体にどう働くのかを、現代の科学で解き明かそうとしている。

昔の人は理屈を知らなくても、体で覚えていた。科学はその「体の記憶」を言語化しようとしている。そのプロセスが積み重なるほど、伝統的な食文化への敬意と理解が深まる。私にとって、ぬか床をかき混ぜる毎朝が、そういう長い歴史の一端に触れる時間でもある。

塩分と乳酸菌の関係を知った今、ぬか床との向き合い方が少し変わった。ただおいしく漬かればいいと思っていたものが、腸内環境や免疫に働きかける可能性を持つ発酵環境だとわかった。毎朝手を入れながら、今日のぬか床の状態を感じる。塩が足りないか、水分が多いか。その小さな判断が、菌の世界のバランスを決めている。ぬか床はまだ研究の途中だ。でも、その途中に自分も関わっている気がして、面白い。


出典:東京科学大学×ぐるなび「ぐるなび食の価値創成共同研究」/「mSystems」2025年4月29日掲載

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。