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世界の発酵食品は、本当に体にいいのか。6大陸・125件の研究を50年分まとめてわかったこと


世界中の、ほとんどすべての食文化に、発酵食品がある。

日本の味噌・納豆、韓国のキムチ、インドネシアのテンペ、ヨーロッパのチーズやザワークラウト、コーカサスのケフィア、アフリカのインジェラ——。これらは偶然に生まれたわけではない。冷蔵庫がなかった時代、人類は微生物の力を借りて食べ物を保存し、栄養を引き出してきた。

では、その発酵食品は「本当に体にいい」のか。

漠然と「体に良さそう」とは思われている。しかし、世界中の研究を横断的に集めて、何が・どこまで言えるのかを整理した研究は、これまで意外と少なかった。

2025年9月、学術誌 Frontiers in Nutrition に、そのギャップを埋める大規模なレビュー論文が発表された。北マケドニア・ドイツ・アイルランドなど16カ国以上の研究者が参加した国際チームによるものだ。

1970年から2024年までの50年間、6大陸にわたる125件の「人間を対象にした研究」を集めて分析した、発酵食品の健康効果に関する系統的レビューである。

4,566件から125件を厳選

この研究の信頼性を支えているのは、その厳密な手続きだ。

研究チームは、PubMed・Scopus・Cochrane Libraryという主要な学術データベースから、発酵食品と健康に関する論文を網羅的に検索した。初期に見つかった候補は4,566件。

そこから、一定の質を満たす「人間を対象とした研究」だけを選び抜いた。ランダム化比較試験(RCT)、コホート研究、横断研究など、科学的に評価できるデザインのものに絞り込んだ結果、最終的に125件が採用された。

動物実験や試験管の中の実験ではなく、実際に人が発酵食品を食べた結果を見た研究だけを集めた点が重要だ。

そして対象となった食品は、味噌・納豆だけではない。アジア・アフリカ・ヨーロッパ・南北アメリカと、世界中の伝統発酵食品が含まれている。

日本の発酵食品が示した健康効果

このレビューの中でも、日本の発酵食品は数多くの研究で取り上げられていた。

納豆は32件の研究で言及され、最も多く研究された食品のひとつだった。納豆に含まれるナットウキナーゼ、大豆イソフラボン、そしてビタミンK2(メナキノン-7)に注目が集まっている。報告された関連には、食後血糖値の抑制、閉経後女性や高齢者の骨量減少の防止、心血管死亡リスクの低減との関連などがある。

味噌は28件の研究で扱われた。興味深いのは、塩分が多いにもかかわらず、味噌の摂取が夜間血圧の低下や高血圧リスクの低減と関連していたという報告があることだ。味噌に含まれるペプチドやイソフラボンの働きが背景にあると考えられている。ただし、これは「塩分を気にしなくていい」という意味ではない。

甘酒も7件の研究で登場する。GABAやグルコシルセラミドなどの成分が、肌の水分保持や便通の改善、腸内環境の改善と関連していたと報告されている。

日本の代表的な発酵食品、納豆と味噌

アジア・アフリカ・ヨーロッパの発酵食品

日本以外の発酵食品にも、それぞれ特徴的な報告があった。

**テンペ(インドネシア)**は21件の研究で扱われ、脂質プロフィールの改善(LDLコレステロールや中性脂肪の低下)、血糖とインスリンの調節、そして軽度認知障害の人の認知スコア改善との関連が報告された。生物活性ペプチドや食物繊維、鉄分が豊富な点が注目されている。

**キムチ(韓国)**は17件の研究で取り上げられた。観察研究では大腸がんリスクの低減との関連が報告され、体重維持や、女性におけるコレステロール・中性脂肪の低下とも関連していた。乳酸菌・食物繊維・カプサイシンといった成分の組み合わせが背景にあると考えられている。

**インジェラ(エチオピア)**は、テフという穀物を発酵させた主食だ。低グリセミック指数(血糖が上がりにくい)で満腹感が得られやすく、食物繊維が鉄の吸収を助けることで、妊産婦の貧血リスク低減と関連していたと報告された。

**バターミルク(ヨーロッパ)**では、LDLコレステロールや中性脂肪の低下、高齢者の遂行機能の改善、炎症性腸疾患(IBD)の症状改善との関連が示されている。

「発酵」そのものが健康成分を生む

このレビューがもうひとつ強調しているのは、健康効果の「出どころ」を区別して考える必要があるという点だ。

発酵食品の健康関連成分は、大きく3つに分けられる。

ひとつめは、もともとの原材料に由来する成分。大豆のタンパク質や、穀物の食物繊維などだ。

ふたつめは、発酵に使われる微生物(乳酸菌や麹菌など)そのもの。これらが腸内で働いたり、腸内細菌のバランスに影響したりする。

そして三つめが、発酵プロセスそのものが新たに生み出す成分だ。ビタミンK2、生物活性ペプチド、GABA、オリゴ糖などがこれにあたる。

論文が特に注目しているのは、この三つめだ。「発酵プロセス自体が、原材料には存在しなかった、あるいは微生物単独では生成されないであろう健康関連成分を生み出す」と述べている。

つまり、大豆をそのまま食べるのと、大豆を発酵させて納豆にして食べるのとでは、体に届く成分が変わる。発酵は単なる保存技術ではなく、食品に新しい価値を加える「変換」なのだ。

慎重に読むべき点もある

一方で、この研究は自らの限界についても率直に述べている。これは誠実な研究の証でもある。

まず、採用された125件は研究デザインがバラバラで、報告の形式も異なるため、統計的に統合する「メタアナリシス」は実施されていない。そのため「効果の大きさ」を数値で断定することはできない。

また、英語で出版された論文に限定しているため、出版バイアス(良い結果が報告されやすい傾向)の影響を完全には排除できない。

さらに、対象がアジア・アフリカ中心で、南米やオーストラリアからの該当研究がなかったこと、そして「塩分の摂りすぎ」など発酵食品の不利な面に関する研究は今回の分析から除外されていることにも注意が必要だ。

つまりこのレビューは、「発酵食品にはこんな健康効果の可能性が世界中で繰り返し報告されている」という全体像を示すものであって、「発酵食品を食べれば病気が治る」と保証するものではない。あくまで食習慣の一部として、バランスよく取り入れることが前提になる。個々の健康状態や食生活によって効果は異なり、特定の食品だけで健康が保証されるものではない。

世界が認める、食文化としての価値

それでも、この研究が持つ意味は大きい。

50年・6大陸・125件という規模で、世界中の伝統発酵食品に一貫した健康効果の可能性が見られたことは、それぞれの食文化が長い時間をかけて磨いてきた知恵に、科学的な裏付けが積み重なりつつあることを示している。

論文は、発酵食品が「世界的な飢餓・栄養不良に対処し、より健全で持続可能な食糧システムを促進する有望なアプローチ」になりうるとまで述べている。

日本人にとって味噌や納豆が身近であるように、世界中の人々がそれぞれの発酵食品とともに暮らしてきた。その多様な伝統が、いま改めて科学の光の中で見直されている。

私たちが何気なく食べている発酵食品は、地球規模で見れば、人類が共有してきた壮大な「食の知恵」の一部なのかもしれない。


発酵食品は、国や文化を超えて受け継がれてきた。その多様さの中に、人と微生物の長い付き合いの歴史がある。


Toshiより

このレビューを読んでまず感じたのは、「発酵食品は体に良いらしい」という感覚が、単なるイメージではなく、長い時間をかけて世界中で積み重ねられてきた”傾向”として確かに存在しているのだ、という安心感でした。50年・6大陸・125件というスケールで見たとき、食文化の違いを超えて似たような健康効果の報告が並ぶという事実は、人類が経験的に選び続けてきた食の知恵の強さを物語っているように思います。

特に印象的だったのは、発酵食品の価値が単に「菌を摂ること」ではなく、発酵というプロセスそのものによって新しい成分や機能が生まれている点です。これは料理人の視点で見ても非常に興味深く、素材をどう変化させるかによって、栄養や体への影響まで変わるという事実は、発酵が単なる保存技術ではなく「価値を創る技術」であることを改めて感じさせます。

一方で、この研究が効果を断定せず、あくまで「関連」や「可能性」として慎重にまとめている点にも強い信頼感を覚えました。発酵食品を食べれば健康になる、という単純な話ではなく、食習慣全体の中でどう取り入れるかが重要であるという前提がしっかり示されているからこそ、このレビューは現実的であり、日常に落とし込みやすいと感じます。

総じてこの研究は、発酵食品の価値を過剰に持ち上げるでも否定するでもなく、「人類が長い時間をかけて育ててきた食文化には、一定の合理性がある」という事実を静かに裏付けているように思いました。そしてその合理性の中心には、微生物と共に生きてきた人間の歴史そのものがあるのだと感じさせられる内容でした。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。