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日本人の腸内細菌は、世界と何が違うのか。37カ国・3万人超の比較で見えてきたこと


「日本人は長寿だ」とよく言われる。

食生活が健康の鍵だという話も、何度となく耳にする。発酵食品、海藻、魚、大豆——日本の伝統的な食文化が体に良いのだという説は広く信じられている。しかし、「なぜ良いのか」を腸内細菌のレベルで、国際的な比較データをもとに示した研究は、これまであまりなかった。

2026年、東京大学大学院新領域創成科学研究科附属生命データサイエンスセンターらの研究チームが、世界37カ国・約31,700サンプルを統合した大規模比較解析を発表した。

日本人5,000人以上の腸内マイクロバイオームを、世界36カ国・25,000人超のデータと比較した結果、日本人の腸内には2つの際立った特徴があることが明らかになった。

ひとつは、ビフィズス菌が世界的に見て非常に豊富だということ。もうひとつは、海藻の多糖類を分解する酵素を持つ腸内細菌が約90%の日本人に存在するという事実だ。

この2つの発見は、「日本人の腸は食文化と遺伝的背景によって独自に形成されてきた」ということを、科学的に示している。

37カ国・3万人超のデータで比べた

この研究の最大の特徴は、その規模だ。

東京大学を中心とした研究チームは、日本人4,198例を含む「Japanese 4Dマイクロバイオームコホート」のデータに、世界36カ国の公開メタゲノムデータを統合。合計37カ国・31,695サンプルという、腸内マイクロバイオームの国際比較研究としては類を見ない規模で解析を行った。

「メタゲノム解析」とは、腸内に存在するすべての微生物のDNAをまとめて解読し、どんな細菌がどれくらいの割合で存在するかを網羅的に調べる技術だ。培養できない菌も含めて、腸内生態系全体を「そのまま」見ることができる。

このデータをもとに主成分分析(PCA)を実施し、国ごとの腸内マイクロバイオームの特徴を比較。日本人に特有の細菌属を統計的に特定した。

発見①:日本人の腸に、ビフィズス菌が多い理由

研究が示した最初の特徴は、日本人の腸内にビフィズス菌(Bifidobacterium)が世界的に見て特に豊富だということだ。

ビフィズス菌は、乳児の腸に多い菌として知られ、健康な腸内フローラを維持する上で重要な役割を担うとされている。しかし成人になると多くの人で減少する。

では、なぜ日本人の腸内にビフィズス菌が多く残っているのか。

研究チームが着目したのは、乳糖不耐症と牛乳摂取の組み合わせだ。

日本人を含む非欧米系の人々の多くは、成人になると乳糖(ラクトース)を分解する酵素(ラクターゼ)の活性が低下する。いわゆる「乳糖不耐症」と呼ばれる状態で、牛乳を飲むとお腹が張る・下痢になるといった症状が出やすい遺伝的背景だ。

一方、日本では戦後の学校給食に牛乳が導入され、多くの日本人が成長期に牛乳を摂取する習慣を持つようになった。

この2つの要素が組み合わさることで、消化されなかった乳糖が大腸まで届き、ビフィズス菌の栄養源(プレバイオティクス的な働き)として機能するという仕組みが生じていると、研究チームは説明している。

遺伝的に「乳糖を消化しにくい」体質が、結果的に腸内でビフィズス菌を育てる環境をつくってきた——これは一見「不利」に思える遺伝的特性が、食文化との相互作用によって腸内環境の独自の特徴を生み出したことを示す、非常に興味深い発見だ。

日本人の腸内細菌の多様性と特徴

発見②:日本人の約90%が持つ「海藻を分解する酵素」

もうひとつの発見は、より直接的に「日本の食文化」を反映している。

日本人の腸内には、海藻由来の多糖類(ポルフィランなど)を分解する酵素を持つ腸内細菌が、約90%の人に存在することが確認された。

欧米人ではこの酵素を持つ腸内細菌がほとんど検出されない。海藻をほとんど食べない食文化の地域では、そもそも腸内細菌がこの酵素を獲得する機会がないためだ。

腸内細菌は、宿主が食べているものに応じて変化する。ノリ・ワカメ・コンブ・ヒジキなど海藻を日常的に食べる日本人の腸には、長い年月をかけて海藻多糖類を利用できる菌が定着してきた。

この現象は、「腸内細菌が食文化に適応した」証拠だ。遺伝子ではなく、食習慣という文化的な積み重ねが、腸内生態系の形を変えてきたことを示している。

過去にも、日本人の腸内細菌が海藻の多糖類を分解する能力を持つという報告はあったが、今回の研究はそれを37カ国の比較データという国際的な文脈の中で明確に位置づけた。

年齢・性別・体格とも関連

今回の研究はさらに、日本人の腸内細菌と年齢・性別・BMIの関係も分析している。

年齢との関係では、年齢とともに増加・減少する特定の細菌属が存在することが確認された。加齢とともに腸内フローラが変化するという一般的な知見と一致するが、日本人コホートにおいて大規模データで確認されたことで、より信頼性が高まった。

性差については、男性ではプレボテラ(Prevotella)属が多く、女性ではエガセラ(Eggerthella)属が多い傾向が示された。食の好みや生活スタイルの違いが、腸内細菌の構成にも反映されている可能性がある。

BMIとの相関では、BMIが高い人ほどアシダミノコッカス(Acidaminococcus)などの特定菌属が増加する傾向が確認された。肥満と腸内細菌の関係は世界的に研究されているテーマだが、日本人データでも同様の傾向が見られたことは重要だ。

「日本食=健康」を裏付ける科学

この研究が持つ意味は、単に「日本人の腸内細菌が他の国と違う」という事実を確認したことにとどまらない。

なぜそうなったのか——その「理由」が、食文化と遺伝的背景によって説明できることが示されたことが重要だ。

ビフィズス菌が多いのは、乳糖不耐症の遺伝的背景と、学校給食に代表される食習慣の変化が重なった結果だ。海藻分解酵素が普及しているのは、日本人が何世代にもわたって海藻を食べ続けてきた食文化の積み重ねだ。

腸内細菌は、その人の食事・生活環境・遺伝的背景を反映した「腸の記録」とも言える。そしてその記録が、個人ではなく集団・文化として蓄積されてきたことを、この研究は示している。

日本食が健康によいとされる背景には、特定の食材や栄養素の効果だけでなく、日本人の腸内細菌が食文化に適応して独自の生態系を形成してきたという、より深い仕組みがあるのかもしれない。

発酵食品との接点

この研究が直接扱っているのは腸内細菌の「種の多様性と分布」であり、発酵食品の効果を直接測定したものではない。しかし、発酵食品を多く含む日本の食文化が、腸内環境の形成に関与してきた可能性は、今回の知見と無関係ではないだろう。

味噌・醤油・納豆・漬物——これらの発酵食品は、食物繊維・有機酸・多様な菌類を供給するだけでなく、腸内細菌が活用できる多様な基質を提供し続けてきた。日常的な発酵食品の摂取が、腸内細菌の多様性と特定菌属の定着を長期的に支えてきた可能性は、今後の研究で検証されるべき重要な課題だ。

今回の東京大学の研究は、腸内マイクロバイオームを「個人の健康管理」ではなく「文化・集団・歴史の産物」として捉え直す視点を提供している。発酵食品を含む日本の食文化が、腸内という場で何を育ててきたのか。そのことを改めて考えさせてくれる研究だ。


日本人の腸は、日本の食文化が育ててきた。それは遺伝と食習慣が長い時間をかけて編み上げた、見えない「生態系」だ。


Toshiより

今回のテーマに触れて改めて感じたのは、自分の中で起きている発酵や腸内環境への関心の高まりは、単なる流行への共感ではなく、これまでの経験や価値観と自然につながって生まれている”自分自身のブーム”だということです。健康のためという目的はもちろんありますが、それ以上に、食べてきたものや積み重ねてきた習慣が、腸という見えない場所にしっかりと刻まれているという事実に、強い面白さと納得感を覚えています。

特に印象的なのは、日本人の腸内細菌が食文化と深く結びついているという視点です。味噌やぬか漬け、海藻といった日常的に触れてきた食べ物が、体の内側で長い時間をかけて影響を与えていると考えると、これまで当たり前だった食事の一つひとつが急に意味を持ち始めます。自分の体は、自分が選んできた食事の結果であり、その積み重ねそのものだと実感させられます。

また、このブームは単に知識を増やすだけでなく、日々の行動を少しずつ変えていくきっかけにもなっています。発酵食品を取り入れる、食べ方を意識する、体調の変化に目を向ける――そうした小さな積み重ねが、自分自身のコンディションを整える手応えにつながっているように感じます。

全体として、このブームは外から与えられたものではなく、自分の中から自然に広がってきた関心であり、これからの生活をより良くしていくための軸になっていくものだと思います。焦らず、自分のペースで続けていきたい、そんな前向きな実感があります。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。