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発酵は、食べ物の「栄養の量や吸収されやすさ」に関わっていた?微生物による栄養強化


発酵食品というと、「保存がきく」「風味が豊か」「腸に良さそう」といったイメージが強い。

しかし、発酵にはもうひとつ、あまり知られていない働きがある。それは、微生物が食品の栄養素の量や、吸収されやすさに関わるという働きだ。

この「微生物による栄養強化(バイオフォーティフィケーション)」のメカニズムを、最新の知見をもとに整理したレビュー論文が、2026年2月、学術誌 Frontiers in Nutrition に発表された(論文タイトル:“Microbial biofortification of fermented foods: a review of probiotic-mediated nutrient enhancement”、DOI: 10.3389/fnut.2026.1754233)。

今回は、この論文が整理した「発酵と栄養」の関係を、納豆など身近な例も交えて紹介したい。

なお、この記事はメカニズムを整理したレビュー論文の紹介であり、特定の食品の健康効果を保証するものではない。数値も、研究でこう報告されているという一例として読んでいただきたい。

この記事について:本記事は研究内容を紹介するもので、特定の食品の効果や健康効果を保証するものではありません。今回の論文は、これまでの研究を整理したレビュー論文です。健康状態や薬との関係が気になる方は、医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。

発酵は「栄養をつくる」こともある

私たちはふだん、「食品に含まれる栄養は決まっている」と考えがちだ。しかし発酵食品では、微生物の働きによって、もとの材料には少なかった栄養素が増えることがある。

論文によれば、発酵に関わる微生物、たとえばラクトバチルス、ビフィズス菌、プロピオニバクテリウム、ストレプトコッカスなどは、発酵の過程でさまざまなビタミンを合成することが報告されている。

つまり、発酵とは「もとの食材を微生物が食べて変化させる」だけでなく、「微生物が新しい栄養素をつくり出す」プロセスでもある。一部の発酵条件では、ビタミンB12やビタミンKなどの栄養素に関わる可能性が研究されているという。

微生物がつくるビタミンたち

論文は、発酵微生物が合成するビタミンについて、具体的な報告例を整理している。あくまで研究で報告された数値の一例だが、いくつか紹介したい。

  • 葉酸(ビタミンB9):ラクトバチルス・プランタルムやビフィズス菌などが合成
  • リボフラビン(ビタミンB2):乳酸菌の一部が合成
  • ビタミンB12:プロピオニバクテリウムという菌が合成
  • ビタミンK2:納豆菌(Bacillus subtilis natto)が合成

最後の納豆菌に注目したい。納豆は、日本人にとって最も身近な発酵食品のひとつだが、その納豆菌がビタミンK2をつくることは、以前から知られている。論文でも、納豆菌がビタミンK2を産生することが、栄養強化の代表例のひとつとして挙げられている。

毎朝の納豆が、微生物の働きで栄養にも関わる食品だと考えると、いつもの一杯が少し違って見えてくる。

ただし、納豆とビタミンK2については、大切な注意点がある。ワルファリンなど血液を固まりにくくする薬を服用している方は、納豆やビタミンKを多く含む食品について、必ず医師・薬剤師に相談してほしい。薬の働きに影響する場合があるからだ。

納豆菌はビタミンK2をつくる。身近な発酵食品の中で微生物が働いている

「吸収されやすくする」という、もうひとつの働き

発酵の栄養面での貢献は、「栄養素をつくる」だけではない。もうひとつ大切なのが、「もともとある栄養素を、体に吸収されやすくする」という働きだ。

論文が挙げているのが、「フィチン酸(フィテート)」の分解だ。

フィチン酸は、豆類や穀物に含まれる成分で、鉄・亜鉛・カルシウムといったミネラルと結びつき、それらの吸収を妨げてしまうことがある。せっかくミネラルが含まれていても、体に取り込まれにくくなるのだ。

発酵の過程では、微生物がこのフィチン酸を分解する。論文によれば、これによってミネラルの吸収されやすさが高まると報告されている。一部の研究では、鉄や亜鉛の利用されやすさが高まったという報告もある。

さらに、発酵中に微生物のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が働くことで、タンパク質が消化されやすくなったり、一部の必須アミノ酸が増えたりする例も報告されている。発酵は、栄養を「つくる」だけでなく「引き出す」技術でもあるのだ。

大切なのは「レビュー論文」であること

ここで、注意点をはっきりお伝えしておきたい。

この論文は、これまでの研究を集めて整理したレビュー論文だ。紹介されている数値の多くは、個別の研究で報告されたものであり、条件によって大きく変わる。「発酵食品を食べれば必ずこれだけの栄養が摂れる」という話ではない。

また、栄養素の量は、菌の種類、発酵の方法、原料、保存状態によって大きく変動する。同じ「発酵食品」でも、中身は一様ではないのだ。

発酵食品は、あくまでバランスの良い食事の一部だ。特定の栄養素をこれだけで補おうとするのではなく、いろいろな食品と組み合わせて、無理なく楽しむのが基本だと思う。

論文が挙げる「課題」も見ておきたい

この論文が誠実なのは、栄養強化の可能性だけでなく、課題や限界にもきちんと触れている点だ。ここも大切なので紹介したい。

論文が挙げる主な課題には、次のようなものがある。

  • 保存中の減少:微生物やビタミンは、乾燥・保存・冷蔵の過程で減ってしまうことがある
  • 風味の問題:ビタミンを多くつくる菌の中には、独特のにおいを生むものもある
  • ばらつきと標準化の難しさ:製品ごと・ロットごとに栄養量が変わり、統一した基準がまだない
  • 臨床証拠の不足:多くの研究が短期的・小規模で、大規模な検証はこれから

つまり、「発酵させれば栄養が無条件に増える」という単純な話ではない。可能性は大きいが、実際に食品として安定的に届けるには、まだ多くの研究と工夫が必要な段階だ。

発酵食品の、新しい魅力

長々と但し書きを重ねたが、それでもこの論文は、発酵食品の新しい魅力を教えてくれる。

私たちは発酵食品を、「保存食」「風味づけ」「腸に良さそうなもの」として親しんできた。しかしその裏側では、微生物がビタミンをつくり、ミネラルを引き出し、タンパク質を消化しやすくするという、こまやかな栄養の仕事もしていた。

特に、植物性の食品で不足しがちな栄養素に、発酵微生物が関わりうるという視点は、これからの食を考えるうえで興味深い。世界には、栄養が不足しがちな地域もある。発酵は、地域の食文化に根づいた身近な技術であり、適切な衛生管理のもとで栄養を支える一助になる可能性がある。

いつもの味噌汁、納豆、漬物、ヨーグルト。その中で微生物が静かに働き、栄養を豊かにしてくれているかもしれない。そう思うと、発酵食品への愛着が、また少し深まる気がする。


発酵は、食べ物を保存し、おいしくするだけではなかった。微生物は、見えないところで栄養のあり方にも関わっていた。小さな菌の、こまやかな仕事だ。


Toshiより

今回の記事を読んで、発酵というものを、また少し違う角度から見ることができました。

これまで僕は、発酵食品というと「保存がきく」「味が深くなる」「腸に良さそう」というイメージを持っていました。味噌、納豆、漬物、ヨーグルト。どれも日々の食卓に自然にあるもので、特別なものというより、暮らしの中に溶け込んでいる存在です。

でも今回のレビュー論文で紹介されていたのは、発酵が食品の栄養そのものにも関わっているかもしれない、という視点でした。微生物がビタミンをつくったり、ミネラルを吸収されやすい形にしたりする。そう考えると、発酵は単に食べ物を変化させるだけではなく、食べ物の中身を少しずつ育てているようにも感じます。

特に納豆菌がビタミンK2をつくるという話は、日本人にとってとても身近です。納豆は、昔から朝ごはんに並ぶ普通の食品です。でもその中では、納豆菌が大豆を発酵させ、独特の粘りや香りを生み出しながら、栄養にも関わる働きをしている。そう思うと、いつもの納豆が少し特別に見えてきます。

ただし、ここで大切なのは、発酵食品を薬のように考えないことだと思います。今回の論文はレビュー論文であり、これまでの研究を整理したものです。「発酵食品を食べれば必ず栄養が増える」「これだけ食べれば不足が補える」という話ではありません。菌の種類、材料、発酵の方法、保存状態によって、中身は大きく変わります。同じ納豆、同じヨーグルト、同じ漬物でも、条件によって違いがあるはずです。

また、ビタミンK2の話では、ワルファリンなど血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方への注意も必要です。納豆は健康的なイメージがありますが、薬との関係では控えるように言われる場合があります。発酵食品だから誰にでも無条件に良い、というわけではない。ここは、きちんと分けて考えたいと思います。

僕自身は、発酵食品の魅力は「これを食べれば健康になる」といった単純なところではなく、毎日の食事を自然に豊かにしてくれるところにあると思っています。味噌汁を飲む。納豆を食べる。漬物を少し添える。ヨーグルトを食べる。そうした小さな習慣の中に、微生物の働きと、人間が長い時間をかけて受け継いできた知恵が入っています。

今回のテーマである「微生物による栄養強化」という言葉は、少し専門的に聞こえます。でも中身を見ていくと、昔ながらの発酵食品が、現代の栄養学や微生物研究の中であらためて見直されているということなのだと思います。昔の人たちは、ビタミンやフィチン酸という言葉を知らなくても、食べ物を発酵させることで保存性を高め、味を良くし、結果として栄養面でも意味のある食品をつくってきたのかもしれません。

もちろん、発酵させれば何でも良くなるわけではありません。衛生管理も大切ですし、塩分が多い食品もあります。保存の仕方によって成分が変わることもあります。だから、発酵食品を過信するのではなく、バランスの良い食事の中で、無理なく取り入れることが大切だと思います。

僕は、発酵食品を「健康のためだけ」に食べるより、まずおいしく味わいたいです。そして、その背景に微生物の働きがあることを知ることで、さらに深く楽しめるようになる気がします。納豆の粘り、味噌汁の香り、漬物の酸味、ヨーグルトのなめらかさ。その一つひとつに、見えない菌の仕事がある。そう考えると、食卓が少し豊かに見えてきます。

今回の記事を通して、発酵は保存や風味だけでなく、栄養の面でもまだ研究される余地がたくさんある分野なのだと感じました。世界には栄養不足に悩む地域もあります。将来的に、発酵という身近な技術が、そうした課題の一助になる可能性があるなら、とても意味のあることだと思います。

ただ、その可能性を語るときこそ、慎重さも必要です。研究で分かってきたことと、まだ分かっていないことを分ける。食品として楽しむことと、医療や栄養管理の代わりにすることを混同しない。期待はしながらも、断定しない。その姿勢を大事にしたいです。

発酵食品は、昔からあるのに、今も新しい発見が続いている不思議な世界です。小さな微生物が、食べ物を保存し、おいしくし、時には栄養にも関わっている。その働きを知るほど、毎日の食卓にある発酵食品を、もっと丁寧に味わいたくなります。

これからも、納豆や味噌汁をただの習慣として食べるだけでなく、その背景にある微生物のこまやかな仕事に少し思いを向けながら、発酵食品と付き合っていきたいです。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。