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味噌は大豆でなくてもいい?ひよこ豆・ルーピン・ささげで仕込んだ「新しい味噌」の研究
味噌といえば、大豆。
これは、日本人にとってあまりに当たり前の常識だろう。味噌汁も、味噌漬けも、その土台には大豆がある。私たちは、疑うことすらしない。
ところが、その前提に静かに問いを投げかける研究が発表された。大豆の代わりに、ひよこ豆やルーピン、ささげといった別のマメ科植物で味噌を仕込むと、どうなるのか。ポルトガルのリスボン大学の研究チームが、18か月という長い時間をかけて確かめた成果である。学術誌「Foods」に2025年12月に掲載された。
今回はこの研究を手がかりに、味噌という発酵食品の奥行きを、あらためて見つめ直してみたい。
なぜ「大豆以外の味噌」を研究するのか
味噌は、大豆・米麹(または麦麹)・塩を混ぜ、微生物の力でゆっくり発酵させて作る。長い時間をかけて、大豆のたんぱく質がうま味成分へと分解されていく。この過程こそが、味噌の風味を生む。
では、なぜわざわざ大豆以外の豆で味噌を作ろうとするのか。
背景には、いくつかの事情がある。ひとつは、持続可能性への関心だ。世界の食料生産は、特定の作物への依存を減らし、地域ごとの資源を活かす方向へと動きつつある。研究チームは、市場価値は高くないが、その土地で育てやすいマメ科植物に着目した。ひよこ豆・ルーピン・ささげは、まさにそうした「地域に根ざした豆」である。
もうひとつは、減塩への期待だ。味噌は塩分が高い食品でもある。原料や発酵のしくみを見直すことで、より塩分をおさえた製品づくりの可能性を探る、という狙いもあった。
18か月かけて確かめたこと
研究チームは、ひよこ豆・ルーピン・ささげ、そして比較のための大豆を使い、それぞれで味噌を仕込んだ。そして18か月という長期間にわたって、発酵がどう進んでいくかを丁寧に追跡した。
注目したのは、発酵の「進み方」である。
味噌づくりでは、乳酸菌などの微生物が働き、環境がだんだんと酸性に傾いていく。研究では、耐塩性の乳酸菌である Tetragenococcus halophilus(テトラゲノコッカス・ハロフィルス)が活躍し、pH(酸性・アルカリ性の度合い)が5.8から4.9へと下がっていったことが確認された。この酸性化は、雑菌の繁殖をおさえ、風味を整えるうえで重要な役割を果たす。
その結果、大豆以外のマメ科植物で仕込んだ味噌も、大豆味噌と大きく異ならない発酵の特徴が見られた。つまり、「大豆でなければ味噌にならない」わけではない、という一つの答えが示されたのである。

ひよこ豆味噌が見せた高い活性
なかでも興味深いのが、ひよこ豆で仕込んだ味噌だ。
研究チームによれば、ひよこ豆ベースの味噌は代謝活性がもっとも高く、可溶性たんぱく質・フェノール化合物・還元糖・有機酸といった成分が、他の豆よりも多く含まれていたという。
少しかみくだいて説明したい。可溶性たんぱく質は、うま味や栄養に関わる成分だ。フェノール化合物は、植物に含まれる成分で、抗酸化作用との関連が研究されている。有機酸は、酸味や保存性、そして味の深みに関わる。これらが豊富に生まれたということは、ひよこ豆が発酵の素材として大きな可能性を秘めていることを示している。
ただし、ここで一点、冷静に付け加えておきたい。この研究は、あくまで発酵のしくみや成分の変化を調べたものであり、「ひよこ豆味噌を食べると健康になる」といった効果を人で確かめたものではない。あくまで、素材としての可能性を科学的に示した段階である。この区別は、誠実に伝えておきたい。
発酵という営みの、普遍性
この研究が教えてくれるのは、発酵という営みの懐の深さだ。
味噌は日本で生まれ育った食文化だが、その根っこにある「豆を微生物の力で発酵させる」というしくみそのものは、素材を選ばない普遍性を持っている。大豆でなくても、条件が整えば、微生物はきちんと働いてくれる。ポルトガルの研究チームが、日本の伝統食である味噌に光を当てたこと自体、発酵が国境を越えて人々を惹きつけている証だろう。
そして、その普遍性は、私たちの食卓にも小さな示唆を与えてくれる。豆の種類が変われば、生まれる成分も、味わいも変わる。発酵食品は、一つの正解に縛られない、多様性に開かれた世界なのだ。
日々の食卓に、どう活かすか

もちろん、ひよこ豆味噌がすぐに店頭に並ぶわけではない。これは研究段階の成果であり、実用化にはまだ時間がかかるだろう。
それでも、この研究は私たちの味噌との付き合い方に、ゆるやかなヒントをくれる。
ひとつは、味噌そのものへの見方だ。毎日の味噌汁は、微生物が長い時間をかけて作り上げた、精巧な発酵食品である。その一杯に、あらためて敬意を向けてみたい。
もうひとつは、塩分への意識だ。研究の背景には減塩への期待があった。味噌は健康的なイメージの強い食品だが、塩分が高いのも事実だ。だしをきかせて味噌の量をおさえる、具だくさんにする——こうした昔ながらの工夫は、そのまま塩分と上手に付き合う知恵でもある。
大豆でなくてもいい、という研究の問いかけは、裏を返せば「発酵の可能性はまだ広がっている」というメッセージでもある。次にどんな味噌が生まれるのか。静かに、楽しみに待ちたい。
Toshiより
今回の研究を読んで、味噌というものを少し広い目で見直すきっかけになりました。
私にとって味噌といえば、やはり大豆です。味噌汁の香り、味噌漬けの深い味、料理の仕上げに少し加えるうま味。そのどれもが、大豆と麹と塩から生まれるものだと思っていました。だから、「ひよこ豆やルーピン、ささげで味噌を仕込む」という発想は、とても新鮮でした。
ただ、考えてみれば、味噌の本質は「大豆だけ」ではなく、豆や穀物を微生物の力でゆっくり変えていく発酵の営みにあるのかもしれません。素材が変わっても、麹や酵母、乳酸菌などが働き、時間をかけてうま味や香りを生み出していく。その仕組みを見れば、味噌という発酵食品には、まだ広がる余地があるのだと感じました。
特に面白かったのは、ポルトガルの研究チームが日本の味噌に注目していることです。味噌は日本の食文化そのもののような存在ですが、その仕組みは国境を越えて研究されている。発酵というテーマが、世界の研究者を引きつけているのだと思うと、少し誇らしい気持ちにもなります。
一方で、この研究を読んで「大豆味噌より新しい豆の味噌の方が良い」と単純に考えるのは違うと思います。今回の研究は、ひよこ豆やルーピン、ささげでも発酵が進む可能性を調べたものであり、味や安全性、商品としての安定性、日常の食卓での使いやすさまで結論づけたものではありません。まして、「健康に良い」と人で確かめた研究でもありません。ここは慎重に受け止めたいです。
ひよこ豆味噌で可溶性たんぱく質やフェノール化合物、有機酸などが多く見られたという結果は、とても興味深いです。発酵の素材として、ひよこ豆には面白い可能性があるのだと思います。ただ、それはあくまで成分や発酵の特徴としての話です。食べた人にどんな影響があるかは、また別の研究が必要です。研究結果を日々の健康効果にすぐ結びつけないことが大切だと感じました。
また、減塩への期待という点も印象に残りました。味噌はおいしく、昔から親しまれてきた食品ですが、塩分があることも事実です。私自身、味噌汁は好きですが、毎日飲むものだからこそ、だしをしっかり取ったり、具だくさんにしたり、味噌の量を少し意識したりすることは大事だと思っています。発酵食品は体に良さそうというイメージだけで食べるのではなく、塩分や量にも目を向けたいです。
この研究は、新しい味噌の可能性を示してくれますが、同時に、いつもの大豆味噌のすごさも思い出させてくれます。長い時間をかけて、麹菌や酵母、乳酸菌が働き、大豆を深い味に変えていく。その結果として、私たちは毎日、何気なく味噌汁を飲んでいます。あまりにも身近だから忘れがちですが、味噌はとても精巧な発酵食品なのだと思います。
私は、伝統を守ることと、新しい可能性を探ることは、対立するものではないと思います。大豆の味噌を大切にしながら、ひよこ豆や他の豆で仕込む味噌の研究にも目を向ける。そうすることで、味噌という食文化は、さらに豊かになっていくのではないでしょうか。
もちろん、ルーピンのように人によってはアレルギーなどの注意が必要な食材もあります。新しい食品として広げるには、味だけでなく、安全性、表示、食べる人への配慮も欠かせません。新しい発酵食品を楽しむには、そうした確認も含めて丁寧に進める必要があると思います。
今回の記事を通して、発酵食品は「昔からあるもの」でありながら、まだ研究の余地がたくさんある分野なのだと感じました。味噌も、完成された伝統食品であると同時に、素材や微生物、発酵条件によって新しい表情を見せる可能性を持っています。
次に味噌汁を飲むとき、私はいつもの大豆味噌の奥にある微生物の働きを、少し思い浮かべてみたいです。そして同時に、世界のどこかで、ひよこ豆やささげを使った新しい味噌の研究が進んでいることも思い出したいです。
発酵は、伝統を閉じ込めるものではなく、時間をかけて広げていくものなのかもしれません。昔からの味噌を大切にしながら、新しい豆の味噌にも静かに期待する。そんなふうに、発酵の世界をこれからも楽しんでいきたいです。
Toshi / 発酵と健康、走ることが好きな56歳
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。