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8菌株を組み合わせると、試験管内の腸モデルで何が起きた?複合プロバイオティクスの予備研究
「腸活」という言葉が、すっかり定着した。
ヨーグルトを選ぶとき、パッケージに書かれた菌の名前を眺める人も多いだろう。乳酸菌、ビフィズス菌、ラクトバチルス——種類はさまざまだ。
では、こうした菌を1種類ではなく、何種類も組み合わせてとると、腸の中では何が起きるのか。韓国の研究チームが、その問いに一つの手がかりを示した。学術誌「Journal of Microbiology and Biotechnology」に2025年に報告された研究である。
今回はこの研究を入り口に、腸内細菌と発酵、そして「短鎖脂肪酸」という物質について、あらためて整理してみたい。
腸内細菌の「バランス」という考え方
私たちの腸の中には、およそ1000種類、数にして数十兆個とも推定される細菌がすんでいる。この集まりを、腸内細菌叢(そう)、あるいは腸内フローラと呼ぶ。
大切なのは、善玉菌か悪玉菌かという単純な二分ではなく、全体の「バランス」だと考えられている。多様な菌がほどよく共存している状態が、健康な腸の一つの目安とされる。
逆に、このバランスが崩れた状態を「ディスバイオシス(dysbiosis)」と呼ぶ。生活習慣の乱れや病気などをきっかけに、特定の菌が減ったり、好ましくない菌が増えたりする。研究者たちは、こうした乱れを整える方法を探し続けている。
今回の研究:8種類の菌を組み合わせて発酵させた
韓国の研究チーム(慶北大学校や東国大学校などの研究者ら)が着目したのは、複数の菌を組み合わせた「複合プロバイオティクス」だ。
使われたのは、次の8種類の菌である。ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス、ラクチプランチバチルス・プランタルム、ラクチカゼイバチルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・ヘルベティカス、リモシラクトバチルス・ロイテリ、ストレプトコッカス・サーモフィルス。いずれも、ヨーグルトやサプリメントでおなじみの菌の仲間だ。
研究チームは、腸内細菌のバランスが乱れた状態を再現するため、ある患者の便の試料を用いた実験系を組んだ。そこにこの8菌株の複合体を加えて発酵させ、腸内細菌の構成や、菌が生み出す代謝産物がどう変わるかを、遺伝子解析(メタゲノム解析)などで詳しく調べた。
短鎖脂肪酸とは何か
この研究で鍵となるのが「短鎖脂肪酸」だ。聞き慣れない言葉なので、少していねいに説明したい。
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維などをエサにして発酵させるときに生み出す物質である。酢酸・酪酸(らくさん)・プロピオン酸などが代表だ。
これらは、腸の粘膜のエネルギー源になったり、腸内を弱酸性に保って好ましくない菌の増殖をおさえたりする働きが、数多くの研究で示されてきた。腸の健康を語るうえで、いま最も注目されている物質の一つといってよい。
つまり、「腸内細菌が短鎖脂肪酸をしっかり作れる環境かどうか」は、腸活の一つの物差しになりうるのだ。
わかったこと
研究チームの報告によれば、8菌株の複合体を加えて発酵させた結果、菌の相対的な割合に変化が見られた。メタゲノム解析では、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサスの割合の増加などが報告されている。ただし、これらの菌はもともと複合体として直接加えたものであり、その割合が増えること自体は、慎重に見る必要がある。
代謝産物の面では、短鎖脂肪酸である酢酸・プロピオン酸と、その前段階となる乳酸・コハク酸の増加が報告されている。一方で、腸内細菌全体の多様性については、統計的に明確な差は確認されていない。
この研究をどう受け止めるか
ここは、冷静に、正直にお伝えしたい。
今回の研究は、あくまで試験管の中(体外の実験系)で行われたものだ。実際にヒトが飲んで、体の中で同じことが起きると確かめた研究ではない。より具体的には、ある1人(炎症性腸疾患の患者)の便試料をもとに、24時間の体外発酵と技術的な繰り返しによって行われた予備研究であり、健康な人との比較もない。研究チーム自身も、結果を「予備的・記述的な段階」と位置づけ、人での確認が必要だとしている。
なお、研究で使われた8菌株はIldong Bioscience社から提供され、著者のうち4人は同社の社員であると論文に開示されている。これは研究結果が誤りという意味ではないが、研究の背景として確認しておきたい点である。
したがって、「この8菌株をとれば腸が整う」と結論づけるのは、まだ早い。これは有望な入り口を示した一歩であって、ゴールではない。今後、多くの人を対象にしたヒト試験で検証されていくべき段階の研究である。
科学の情報に接するときは、こうした「どこまで分かっていて、どこからが未確認か」の線引きを大切にしたい。期待しすぎず、しかし芽を見逃さず、という距離感である。
日々の食卓へのヒント
では、いまの私たちにできることは何だろう。
一つは、菌の「多様性」を意識することだ。ヨーグルト、納豆、味噌、漬物、キムチ——発酵食品にはそれぞれ違った菌がすんでいる。同じものだけでなく、いろいろな発酵食品をとることは、腸内の顔ぶれを豊かにする素朴な方法といえる。

もう一つは、菌のエサになる食物繊維だ。短鎖脂肪酸は、菌が食物繊維を発酵させて生み出す。野菜、海藻、豆、雑穀などをしっかりとることは、菌が働くための土台になる。
発酵食品や食物繊維を食事に取り入れることは、日々の献立を考える一つの選択肢になる。ただし、今回の研究は、発酵食品と食物繊維を組み合わせて食べた効果を調べたものではなく、研究用の8菌株を用いた試験管内実験である。同じ変化が人の腸内で起こるとは、まだ確認されていない。
派手な結論に飛びつくのではなく、いつもの食卓を少していねいにする。腸活の基本は、案外そこにあるのかもしれない。
Toshiより
「腸活」という言葉が広く知られるようになり、乳酸菌やビフィズス菌を意識して食品を選ぶ人も増えました。私もスーパーでヨーグルトを手に取ると、パッケージに書かれている菌の名前や数が気になることがあります。
しかし、菌の名前を見ても、それぞれが何をしているのか、複数の菌を一緒にとるとどうなるのかまでは、なかなか分かりません。「菌は多いほどよいのか」「種類を増やせば、その分だけ腸に良いのか」。今回の研究は、そんな素朴な疑問を考えるきっかけになりました。
この研究で使われたのは、8種類というより、正確には8つの「菌株」を組み合わせた複合プロバイオティクスです。同じ種類の菌でも、菌株が違えば性質や働きが異なることがあります。人間でいえば、同じ日本人でも一人ひとりに違いがあるようなものかもしれません。
研究では、炎症性腸疾患のある一人の患者から提供された便試料に8菌株を加え、試験管内で24時間発酵させています。その結果、菌の構成や、酢酸・プロピオン酸などの代謝産物に変化が見られました。
この結果だけを見ると、「8種類の菌をとれば腸内環境が良くなる」と考えたくなります。しかし、ここは慎重に受け止める必要があります。今回調べられたのは、一人分の便試料から作られた体外モデルです。実際に人がこの複合プロバイオティクスを飲み、胃や小腸を通り、その人の生活や食事、もともとの腸内細菌と関わった結果を調べたわけではありません。
試験管の中では、温度や時間、栄養などの条件を一定にできます。しかし、人間の腸の中は、もっと複雑です。食べたもの、薬、睡眠、ストレス、運動、年齢など、さまざまな要因が絶えず影響しています。同じものをとっても、全員に同じ変化が起きるとは限らないでしょう。
それでも、この研究は意味のないものではありません。人を対象とした大きな試験へ進む前に、まず限られた条件の中で何が起きるかを確認することは、研究の大切な第一歩です。今回の結果は「人にも効くという答え」ではなく、「次に確かめる価値のある可能性」として受け止めるのがよいと思います。
私が特に興味を持ったのは、短鎖脂肪酸という物質です。
腸内細菌は、私たちが食べた食物繊維などを利用しながら、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸をつくります。人間が食べたものを、人間の体だけで処理しているのではありません。腸に暮らす微生物も食事の一部を受け取り、別の物質へ変えているのです。
私たちは自分一人で食事をしているつもりでも、実際には腸内細菌にも食事を届けている。そう考えると、食べ物の見方が少し変わります。
ただし、「短鎖脂肪酸は多ければ多いほどよい」と単純に考えることもできません。その種類や量、つくられる場所、その人の健康状態などによって、体との関わり方は変わると考えられます。今回の研究でも、測定されたのは体外での発酵による変化です。人の体内での吸収や作用までは確認されていません。
もう一つ考えさせられたのが、「善玉菌」「悪玉菌」という呼び方です。
この二つの言葉は分かりやすい反面、微生物の世界を少し単純にしすぎるところがあります。普段は問題を起こさない菌でも、腸内環境や体の状態によっては好ましくない働きをすることがあります。反対に、すべての人にとって、ある菌がいつも同じように有益とは限りません。
大切なのは、特定の菌を善か悪かに分けることよりも、多くの菌がどのような関係で共存しているかを見ることなのでしょう。腸内環境は、一つの菌だけで動いているのではなく、さまざまな菌が物質をやり取りしながら成り立つ生態系です。
複数の菌を組み合わせるという発想も、その複雑さを意識したものだと思います。一つの菌がつくった物質を、別の菌が利用することもあります。菌どうしが助け合う場合もあれば、栄養や居場所をめぐって競い合う場合もあるでしょう。
ただ、菌の種類を増やせば、必ず良い協力関係が生まれるわけではありません。今回の8菌株についても、組み合わせによる相乗効果が人の体内で起きるかどうかは、これからの研究課題です。「8種類だから1種類より優れている」と、現時点で決めつけることはできません。
また、研究で使用された菌株を提供した企業の社員が、著者として研究に参加していることも開示されています。企業が研究に関わること自体は、珍しいことでも悪いことでもありません。食品やプロバイオティクスを実際に開発するには、大学、医療機関、企業の協力が必要になる場合があります。
大切なのは、その関係が読者にきちんと示され、ほかの研究者による再現や、人を対象とした試験によって結果が確かめられていくことだと思います。誰が研究し、どのような試料と条件を使い、どこまで分かったのか。その背景まで含めて読むことが、科学との健全な付き合い方なのでしょう。
日々の食卓についても、今回の研究から直接「この食品を食べるべきだ」と結論づけることはできません。研究用の8菌株を加えた試験管内実験と、味噌、納豆、ヨーグルトなどを食べることは、同じではないからです。
それでも、食物繊維を含む野菜、海藻、豆、きのこ、穀物などを、普段の食事に無理なく取り入れることは大切だと思います。発酵食品についても、一つの健康効果を期待して大量に食べるのではなく、献立の一部として楽しみたいものです。

味噌や漬物、キムチには塩分が多いものがあります。ヨーグルトには糖分の多い商品もあります。大豆や乳製品などのアレルギーにも注意が必要です。「腸に良さそう」という言葉だけで量を増やすのではなく、食品全体を見て選ぶ姿勢を忘れないようにしたいと思います。
私自身は、健康のためにジョギングや運動を続けています。腸内環境も、特定の菌や一つの食品だけで決まるものではなく、運動、睡眠、食事、ストレスなど、毎日の生活全体とつながっているはずです。
ヨーグルトを食べたから運動しなくてよいわけでもなく、ジョギングをしたから食生活を気にしなくてよいわけでもありません。何か一つに頼るのではなく、小さな習慣をいくつか重ねていく。それが一番現実的で、長く続けやすい健康との向き合い方だと感じています。
今回の研究は、完成した答えではありません。一人分の便試料を使った、小さな体外実験です。しかし、小さいから価値がないのではなく、小さいからこそ、そこから何を言えて、何をまだ言えないのかを丁寧に見る必要があります。
8菌株を組み合わせたとき、試験管内で菌の構成や代謝産物に変化が起きた。その事実を出発点として、今後、より多くの試料や人を対象にした研究が積み重なっていくのでしょう。
「菌をたくさんとれば大丈夫」という簡単な話ではありません。けれど、私たちの腸の中で、数え切れないほどの微生物が互いに関わりながら生きている。その複雑な世界を少しずつ理解しようとする研究には、大きな面白さがあります。
派手な健康効果を期待するより、まず自分の食卓と生活を丁寧に整える。そして、新しい研究については、期待と慎重さの両方を持って見守る。それが、私なりの「腸活」との付き合い方です。
Toshi / 発酵と健康、走ることが好きな56歳
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。