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野菜・果物・食用花から見つかる乳酸菌|発酵の菌の供給源を探るレビュー


この記事について:本記事は、植物に関連する乳酸菌の研究を整理したレビュー論文の紹介です。生の野菜・果物・花に付着した微生物が、すべて有益または安全であるという意味ではありません。また、家庭での自己流の発酵を勧めるものでもありません。


ヨーグルト、漬物、味噌、キムチ。

発酵食品の話になると、決まって登場するのが「乳酸菌」だ。糖を分解して酸を生み出し、独特の風味や酸味をつくる、発酵の主役である。

では、その乳酸菌は、いったいどこから来るのだろうか。実は、私たちが毎日口にする新鮮な果物や野菜、そして食用花の表面にも、乳酸菌は数多くすんでいる。この「植物由来の乳酸菌」を体系的に整理した総説(レビュー論文)が、学術誌「World Journal of Microbiology & Biotechnology」に2026年に発表された。イタリアの研究チームによるものである。

今回はこの論文を手がかりに、発酵の菌と植物の意外な関係をたどってみたい。

新鮮な植物は、小さな菌のすみか

ふだん意識することは少ないが、野菜や果物の表面は、無数の微生物が暮らす「すみか」でもある。

土や空気、水を通じて、さまざまな菌が植物にたどりつき、そこで小さな生態系をつくっている。レビューは、こうした生鮮植物の表面を「複雑な微生物群集を持つ場」ととらえている。

乳酸菌は、その群集の一員だ。植物の上で、糖などを利用しながら暮らしている。野菜や果物を生で食べる場合、表面の微生物の一部を一緒に取り込む可能性がある。ただし、植物の表面には乳酸菌以外の微生物も存在するため、生食する食品は適切に洗い、衛生的に扱うことが大切だ。

果物・野菜、そして「食用花」から

このレビューが光を当てたのは、果物や野菜だけではない。「食用花」という、少し珍しい供給源も含まれている。

食べられる花は、料理を彩る素材として使われることがある。その花の表面からも、多様な乳酸菌が見つかるという。研究チームは、こうした植物由来の乳酸菌を横断的に整理し、その多様性をまとめた。

なお、ここでいう食用花は、食用として確認され、食用目的で栽培・販売されたものを指す。観賞用の花や野外で採取した花を、見た目だけで食べてよいという意味ではない。植物自体に毒性がある場合や、食用を前提としない農薬が使われている場合もあるため、自己判断で口にしないことが重要だ。

論文自身が「植物に関連する乳酸菌の統合的な概観を示した初めてのレビュー」と位置づけている点も興味深い。これまで、ばらばらに研究されてきた知見を、一つの見取り図としてまとめた、という意義がある。

乳酸菌は、植物の上で何をしているのか

では、植物にすむ乳酸菌は、どんな働きをしているのか。レビューは、大きく三つの側面を整理している。

一つは、発酵だ。糖を分解して酸をつくり、環境を弱酸性に保つ。これは、漬物などの発酵の出発点にもなる。

二つ目は、生物保護と呼ばれる働き。乳酸菌がつくる酸やその他の成分が、一定の条件下で一部の望ましくない微生物の増殖を抑える可能性が研究されている。ただし、乳酸菌が存在すれば食品の安全性が保証されるわけではなく、殺菌の代わりになるものでもない。

三つ目は、生理活性に関わる成分をつくる可能性だ。ただし、これは「体にこう効く」と確かめられた段階ではなく、あくまで素材としての可能性を探る研究の段階にある。ここは慎重に受け止めたい。

実は、身近な漬物もこの力で

植物にすむ乳酸菌の働きは、遠い研究室の話ではない。私たちの食卓の、ごく身近なところで、すでに生きている。

たとえば、ザワークラウト(キャベツの発酵漬け)や、韓国のキムチ、長野に伝わる「すんき漬け」。これらの多くは、乳酸菌を後から加えなくても発酵が進む。理由は、原料である野菜そのものの表面に、もともと乳酸菌がすんでいるからだ。

伝統的な自然発酵では、原料や製造環境に由来する微生物が、適切に管理された塩分、温度、時間、衛生状態のもとで働く。ただし、自己流で常温放置すれば安全に発酵するという意味ではない。家庭で発酵食品をつくる場合は、信頼できるレシピに従い、容器や原料を衛生的に扱う必要がある。

つまり、昔の人は乳酸菌の存在を知らないまま、植物由来の乳酸菌の力を、経験的に利用してきたのである。今回のレビューは、その「見えていた結果」の裏側にある菌の世界を、あらためて整理し直したもの、ともいえる。

食品づくりへの応用

こうした植物由来の乳酸菌は、これからの食品づくりにいくつかの可能性を開く、とレビューは述べている。

たとえば、新しい発酵食品や発酵飲料の開発。これまで使われてきた菌とは違う個性を持つ株が見つかれば、風味の幅が広がるかもしれない。果物や花に由来する菌なら、これまでにない香りや酸味を生む可能性もある。あるいは、プロバイオティクスとして培養する菌の候補にもなりうる。

ただし、植物から見つかった乳酸菌が、そのままプロバイオティクスとして利用できるわけではない。安全性、菌株としての性質、必要量、人での有効性などを個別に確認する必要がある。

もう一つ注目されるのが、持続可能性の観点だ。規格外で売り物にならない野菜や、ジュースなどの加工の過程で大量に出る搾りかす。こうした植物の副産物にも、まだ使える乳酸菌が含まれていることがある。それらを活かせれば、これまで捨てられていた資源に、新しい価値を与えることにつながる。食品ロスの削減という、いまの時代の課題ともつながる話である。

まだ、これからの分野

もっとも、これは有望な可能性を整理した総説であり、すぐに実用化される話ではない。

どの株が本当に役立つのか、安全に使えるのか。植物の上という変化の激しい環境で、乳酸菌がどのように環境ストレスに耐え、適応しているのか。そうしたことを、ゲノムや生態の面から一つずつ確かめていく必要がある。

それでも、身近な野菜や果物、花が、発酵の菌の「新しい供給源」になりうるという視点は、新鮮だ。発酵という古くからの営みが、いまも新しい菌との出会いによって広がりうることを、この研究は教えてくれる。

次に色とりどりの野菜や果物を手に取るとき、その表面で静かに暮らす小さな菌たちのことを、少しだけ思い浮かべてみたい。

Toshiより

乳酸菌と聞くと、私はこれまで、ヨーグルトや乳酸菌飲料の中に入っている菌を思い浮かべていました。あるいは、味噌、漬物、キムチなど、すでに発酵した食品の中で働く菌という印象です。

しかし今回の記事を読み、その乳酸菌が、発酵食品になる前の野菜や果物、そして食用花からも見つかっていることを知りました。発酵は工場や専用の容器の中で突然始まるのではなく、原料となる植物や周囲の環境とつながったところから始まる。そのことが、とても興味深く感じられました。

畑で育った野菜や果物は、見た目には一つの食材です。しかし、その表面や内部には、人間の目では見えない微生物の世界があります。土、水、空気、昆虫、人の手など、さまざまなものとの接触を通じて微生物が集まり、小さな生態系がつくられています。

私たちはトマトやキャベツを一個の野菜として見ていますが、微生物の視点から見れば、多くの生き物が一緒に存在する場所なのかもしれません。

ただし、植物に微生物がいるからといって、それらがすべて体に良い菌であるわけではありません。乳酸菌は、植物に存在する微生物群の一部にすぎず、ほかにも多様な細菌や酵母、カビなどが存在します。中には、食品を傷ませるものや、人にとって望ましくないものが含まれる可能性もあります。

「自然由来だから安全」「乳酸菌がいるから洗わずに食べたほうがよい」と考えるのは危険です。生で食べる野菜や果物は適切に洗い、清潔な手や調理器具で扱う。これまで行ってきた基本的な衛生管理は、研究を知った後も変わりません。

科学の情報は、日常の安全を守る行動と一緒に受け止めることが大切だと思います。

今回、もう一つ新鮮だったのが「食用花」です。

料理に花が添えられていると、それだけで一皿が華やかになります。その表面からも乳酸菌が見つかり、新しい発酵用の菌を探す研究対象になっているという話には、植物の多様さを感じます。

しかし、「食用花」という言葉で最も大切なのは、花なら何でも食べられるわけではないということです。

花には、食べられる種類と食べられない種類があります。食べられる植物でも、部位によっては適さない場合があります。また、花屋で売られている観賞用の花は、食べることを前提に栽培されているとは限りません。種類が分からない花や、道端、公園、庭などに咲いている花を、見た目だけで判断して口にするべきではありません。

今回の研究は、食用として確認された植物から乳酸菌を探す研究です。「身近な花を採って食べてみよう」という内容ではありません。この区別は、読者にもしっかり伝える必要があると思います。

発酵食品についても、同じ慎重さが必要です。

昔の人は乳酸菌という名前を知らなくても、野菜を保存する中で、酸味が生まれ、食材が変化することを経験から知っていました。何度も仕込み、失敗と成功を重ねながら、塩の量、温度、時間、容器、季節などを調整してきたのでしょう。

その知恵が、漬物、キムチ、ザワークラウト、すんき漬けなど、地域ごとの発酵文化になって受け継がれてきました。

私は、ここに発酵の面白さを感じます。人間が微生物を発見するより前から、微生物の働きは暮らしの中で利用されていました。科学は、昔の人が経験によって見つけた方法の裏側で、どのような菌が働いていたのかを、後から説明し始めたのです。

一方で、伝統的な発酵があるからといって、野菜に塩を振って常温に置けば、何でも安全な発酵食品になるわけではありません。

望ましい乳酸菌だけが増えるとは限りません。塩分、温度、酸素、時間、原料の状態、容器の衛生などが適切でなければ、腐敗したり、望ましくない微生物が増えたりする可能性があります。見た目やにおいだけでは、安全性を判断できない場合もあるでしょう。

家庭で発酵食品をつくるなら、実績のある信頼できる作り方に従うことが大切です。異常な色、カビ、容器の膨張、通常と違うにおいや状態が見られたときに、「発酵だから大丈夫」と無理に食べない判断も必要だと思います。

発酵と腐敗は、どちらも微生物によって食材が変化する現象です。人間にとって安全で、おいしく利用できる状態へ導くには、長い経験と適切な管理が必要です。

今回のレビューは、植物から見つかる乳酸菌を、新しい食品づくりへ利用できる可能性も紹介しています。

同じ乳酸菌という呼び名でも、菌株によって性質は異なります。酸をつくる速さ、耐えられる温度、利用できる糖、つくり出す香りや成分など、それぞれに個性があります。

果物から見つかった菌、野菜から見つかった菌、食用花から見つかった菌。その中に、これまでとは違う味や香りを生み出す菌がいるかもしれません。特定の原料によく適応し、安定した発酵を助ける菌が見つかる可能性もあります。

ただし、植物から見つかった乳酸菌だからといって、そのまま食品に使えるわけではありません。人が食べても安全か、好ましくない成分をつくらないか、保存中も性質が安定しているかなど、多くの確認が必要です。

「プロバイオティクス候補」という言葉についても、候補はあくまで候補です。試験管の中で酸や胆汁に耐えたからといって、人が食べたときに健康上の利益が得られるとは限りません。菌株ごとの安全性や、人を対象にした研究を重ねて、初めて分かることがあります。

研究の可能性に期待しながら、まだ確認されていないことを、確認された効果のように語らない。その姿勢を大切にしたいと思います。

植物の副産物を活用する研究にも関心を持ちました。

形や大きさが規格に合わず販売されない野菜、ジュースをつくった後の搾りかす、食品加工で残る皮や葉などには、まだ利用できる成分や微生物が残っている可能性があります。それらを安全に回収し、新しい発酵食品やスターターの研究に生かせれば、捨てられていたものに別の価値を与えられるかもしれません。

ただ、これも「捨てる部分をそのまま食べればよい」という話ではありません。副産物の保存状態、汚染、農薬、毒性、アレルギーなどを確認し、安全な加工方法を確立する必要があります。食品ロスの削減という目的があっても、安全性を後回しにはできません。

私が今回のレビューから感じたのは、私たちが普段見ている植物の姿は、その一部分にすぎないということです。

色、形、香り、味だけでなく、そこには目に見えない微生物の多様性があります。発酵食品は、その微生物の働きを人間の暮らしに取り入れてきた文化です。

一杯の味噌汁、一皿の漬物、一個の果物。その背景には、畑、土、水、気候、人の手、そして微生物がつながっています。食卓に届いた食品だけを見るのではなく、そこへ至るまでの長い流れを想像すると、発酵という営みがさらに奥深く感じられます。

自然の中には、まだ知られていない菌が数多く存在します。その中から、食品づくりに役立つ菌を探し、性質を確かめ、安全に利用できる形へ育てていく。それは、とても地道な研究です。

派手な健康効果を急いで求めるより、「どこに、どのような菌がいて、何ができるのか」を一つずつ調べる。その積み重ねが、将来の新しい発酵食品につながるのだと思います。

野菜や果物、食用花は、乳酸菌の可能性を探る研究の入り口です。しかし、自然に存在するものを無条件に安全だと思わず、衛生と科学的な確認を大切にする。その慎重さを持ちながら、植物と微生物がつくる小さな世界を、これからも興味深く見守っていきたいです。


Toshi / 発酵と健康、走ることが好きな56歳

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。