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味噌の「生体調節機能」はどこまで調べられたのか|1997年度の研究記録から


この記事について:本記事は、味噌に関する過去の研究(ラットを用いた動物実験)を紹介するものです。特定の食品が病気(がんなどを含む)を予防・治療すると示すものではなく、医療上の助言でもありません。紹介するのは1997年度に登録された研究概要であり、査読付き論文そのものではありません。また、味噌そのものについては、対照群との統計学的な有意差が確認できる内容ではありません。味噌は塩分を多く含む食品でもあります。健康や治療について気になることは、自己判断せず、医師などの専門家に相談してください。


味噌汁、味噌漬け、味噌だれ。

味噌は、日本の食卓に深く根づいた発酵食品だ。そして、これほど身近な食品だからこそ、その体への働き――「生体調節機能」と呼ばれる性質――は、古くから研究の対象になってきた。

そうした研究のなかには、公的な研究費のもとで行われたものもある。厚生労働科学研究の記録に、「発酵性食品、特に味噌の生体調節機能に与える影響に関する研究」という課題が残されている。研究代表者は、広島大学原爆放射能医学研究所の伊藤明弘氏である。

この研究課題は1995年度に開始され、2000年度までの実施が予定されていた。今回参照するのは、そのうち1997年度の総括として登録された概要である。

今回はこの記録を手がかりに、味噌の機能性がどのように調べられてきたのか、そして、その結果をどう受け止めるべきかを整理してみたい。

公的な研究で調べられてきた

味噌の機能性は、個々の企業や研究者だけでなく、公的な研究費のもとでも検討されてきた。今回とりあげる課題も、その一つである。

こうした研究が積み重ねられてきた背景には、味噌が長い歴史を持ち、多くの人に食べられてきた食品である、という事情がある。身近で、口にする機会の多い食品だからこそ、その性質を科学的に確かめることに意味がある、と考えられてきたわけだ。

日本人にとって味噌は、単なる調味料ではない。地域ごとの食文化を映し、家庭の味を支えてきた食品でもある。そうした文化的な重みを持つからこそ、その働きを科学の目で確かめようとする試みが、さまざまな形でくり返されてきたのだろう。

ただし、「研究されてきた」ということと、「効果が証明された」ということは、まったく別である。ここは、最初にはっきりさせておきたい。

なお、データベースへの掲載や公的研究費による実施は、厚生労働省が味噌の健康効果を認定・保証したことを意味しない。また、今回の参照元は研究概要であり、査読付き論文そのものではない。

動物実験で調べられたこと

この研究で行われたのは、主にラットを使った実験である。

調べられたのは、味噌や大豆、そして研究対象となった植物由来フラボノイドの一つ「バイオカニンA」である。研究の目的は、味噌に関連する食品の、がんの化学予防への効果を実験的に調べることにあった。

発がん物質を投与したラットを用いた実験では、乳腺腫瘍の発生率が、対照群の80%に対して10%乾燥赤味噌群では60%と、数値上は低く報告された。ただし、この概要では、味噌群について対照群との統計学的な有意差が示されたとは確認できない。有意差が明記されているのは、主にバイオカニンA群である。

ここは、とても大切な点だ。「数値が低かった」ことと、「統計的に意味のある差が確認された」ことは、別である。味噌そのものについては、後者が確認できるとは言えない。この区別を曖昧にしたまま「味噌に抑制効果があった」と読むことは、できない。

これは「動物実験」であること

まず、これはラットを使った実験である。人が味噌を食べたときに、同じことが起きると確かめた研究ではない。

動物実験で見られた結果が、そのまま人に当てはまるとは限らない。体の仕組みも、食べる量も、生活のあり方も、人とラットではまったく違う。動物で有望に見えた結果が、その後の人での研究で確認されないことも、科学の世界では少なくない。

また、実験では、特定の成分や食品を、条件をそろえて与えている。日常の食事のなかで、いろいろな食べ物と一緒に、さまざまな量をとる状況とは、前提が異なる。実験室で確かめられた「可能性」と、日々の食卓での「実際」とのあいだには、まだ大きな隔たりがある。

さらに、この研究概要は1997年度のもの、つまり20年以上前に登録されたものだ。基礎的な段階の研究であり、そこから「味噌ががんを予防する」と結論づけることはできない。食品は薬ではなく、特定の病気を予防したり治療したりできると示されたものではない。この線引きは、絶対に見失いたくない。

味噌という食品の、科学的な背景

留保を確認したうえで、味噌そのものについても少し整理しておきたい。

味噌は、大豆に麹と塩を加え、微生物の力で発酵させてつくられる。大豆はたんぱく質を豊富に含み、イソフラボンなどの成分を持つ。発酵では麹菌が中心的な役割を担い、製法によっては酵母や乳酸菌なども関わる。その過程で、うま味や香りの成分が生まれ、大豆のたんぱく質はアミノ酸などへと分解されていく。

こうした成分や、発酵による変化が、味噌の風味と栄養の土台になっている。味噌が長く研究の対象になってきたのは、この複雑さと奥行きゆえでもあるだろう。

ただし、成分が体にとって望ましい可能性が研究されていることと、実際に健康効果が確立していることは、やはり別の話である。

「味噌」とひとくくりにできない多様さ

もう一つ、味噌を考えるうえで大切なのが、その多様さだ。

ひとくちに味噌といっても、その中身は一様ではない。米麹を使う米味噌、麦麹を使う麦味噌、大豆麹を使う豆味噌など、麹の種類によって大きく分かれる。さらに、塩の量や熟成の期間、地域の気候や蔵に住みつく微生物によっても、色も風味も変わってくる。

同じ「味噌」という言葉で呼ばれていても、その成分や味わいは、製品ごとに異なる。だからこそ、ある研究で使われた味噌の結果を、すべての味噌に当てはめて考えることには、慎重でありたい。研究を読むときには、「どの味噌を、どんな条件で調べたのか」に目を向けることが大切になる。

塩分という、大切な注意点

味噌を語るうえで、忘れてはならないのが塩分だ。

味噌は、保存性や発酵の管理のために、塩を多く含む。健康的なイメージが先行しやすい食品だが、とりすぎれば塩分の過剰につながる。「体によさそう」という理由で量を増やすと、塩分の摂取量が増える可能性があるため注意が必要である。

だしをしっかりきかせて味噌の量をおさえる、具だくさんにする、汁の量を控える。こうした昔ながらの工夫は、塩分と上手に付き合うための、現実的な知恵である。

とりわけ、血圧が気になる人や、塩分を控えるよう医師から言われている人は、量に気を配りたい。味噌の機能性に関心を持つことと、塩分に注意することは、決して矛盾しない。むしろ、両方を意識してこそ、味噌と長く付き合っていけるのだと思う。

研究を、そのままの大きさで受け止める

味噌は、日本の食文化を支えてきた、奥行きのある発酵食品だ。その機能性が、公的な研究をふくめて長く調べられてきたこと自体は、興味深い事実である。

しかし、その研究の多くは、動物実験や基礎的な段階のものであり、人での効果や、病気の予防・治療を示したものではない。今回見たように、味噌そのものについては、統計学的な有意差が確認できるとは言えない部分もある。分かってきた可能性と、確定した事実とは、はっきり分けて受け止める必要がある。

こうした姿勢は、味噌にかぎった話ではない。「〇〇が△△に効く」という言葉を目にしたとき、それが動物実験なのか、人での研究なのか、統計的にどこまで確かめられたのかに、いちど立ち止まって目を向ける。派手な見出しに飛びつかず、研究がどこまでを示しているのかを、落ち着いて確かめる。そうした読み方は、日々あふれる健康情報と付き合ううえで、大きな助けになる。

大きな効能を期待して身構えるよりも、いつもの味噌汁を、食文化として味わう。塩分には気をつけながら、日々の食事の一部として、無理なく楽しむ。味噌との付き合い方としては、それがいちばん自然なのだと思う。

効能を証明されなくても、味噌のおいしさは変わらない。朝の一杯の香りや、具材との組み合わせを楽しむこと。その素朴な喜びこそが、味噌が長く受け継がれてきた理由なのだろう。

Toshiより

味噌は、私にとってあまりにも身近な食べ物です。

味噌汁として飲み、料理の味つけに使い、ときには野菜や肉を漬ける。特別な健康食品として意識しなくても、気づけば日々の食卓に味噌があります。それだけに、「味噌には体によい働きがある」と聞くと、どこか納得したくなる自分もいます。

長い歴史を持ち、多くの人が食べ続けてきた食品なのだから、きっと何か特別な力があるのではないか。発酵食品を愛する者として、そう期待したくなる気持ちはよく分かります。

今回の研究記録を読んで感じたのは、その期待を否定する必要はないけれど、期待と証明は分けて考えなければならないということです。

今回参照したのは、厚生労働科学研究成果データベースに収録されている、1997年度の研究概要です。研究課題は1995年度に始まり、2000年度までの実施が予定されていました。その一部として、味噌や大豆などを使ったラットの実験結果が記録されています。

ここで注意したいのは、「厚生労働科学研究成果データベースに載っている」ということが、厚生労働省による効果の認定を意味するわけではないことです。公的な研究費で調べられたことと、国がその効果を保証したことは別です。

また、今回の参照元は研究の概要であり、それだけで現在の科学的な結論を示すものでもありません。こうした違いは、研究に詳しくない人には分かりにくい部分だと思います。私自身も、「厚生労働省」「公的研究」という言葉を見ると、つい強い裏づけがあるように感じてしまいます。

だからこそ、肩書や研究機関の名前だけで判断せず、実際に何を、どのような条件で調べたのかを見ることが大切なのだと思います。

今回の実験では、発がん物質を投与したラットに、10%の乾燥赤味噌を含む飼料などを18週間与え、乳腺腫瘍の発生率や個数などを調べています。人が普段の食事で味噌汁を飲む状況とは、かなり異なる条件です。

報告された乳腺腫瘍の発生率は、対照群の80%に対して、10%乾燥赤味噌群では60%でした。数字だけを見れば、味噌群のほうが低くなっています。

しかし、ここで「味噌が腫瘍を抑えた」と言い切ることはできません。今回確認した概要では、味噌群について対照群との統計学的な有意差が示されたとは確認できないからです。有意差が明記されているのは、研究対象となった植物由来成分、バイオカニンAの群です。

「80%が60%になった」という数字だけを取り出せば、とても印象的な見出しをつくることもできるでしょう。けれど、その差が偶然のばらつきではないと判断できるかどうかは、別の問題です。研究を伝える側には、数字の大きさだけではなく、統計的に何が確認されたのかまで見る責任があると思います。

科学の記事では、「低かった」「関連が見られた」「有意差が確認された」「効果が証明された」という言葉は、それぞれ意味が違います。その違いを曖昧にすると、まだ可能性の段階にあるものが、確立した効果のように伝わってしまいます。

私は、味噌に都合のよい結果だけを強く見せるより、「数値上は低かったが、味噌群の有意差までは確認できない」と正直に書くほうが、味噌という食品への敬意にもつながると思います。

味噌は、病気を予防すると宣伝しなければ価値がなくなるような食品ではありません。味噌には、味噌そのもののおいしさがあります。大豆と麹と塩が時間をかけて変化し、うま味や香りを生み出していく。その過程だけでも、十分に奥深く、語る価値があります。

米味噌、麦味噌、豆味噌。甘い味噌もあれば、塩味の強い味噌もあり、熟成期間によって色や香りも変わります。同じ味噌汁でも、使う味噌やだし、具材によって、まったく違う一杯になります。

その多様さを味わうことと、健康効果を断定することは別です。味噌を愛するからこそ、研究結果を必要以上に大きく見せない姿勢を持ちたいと思います。

もちろん、今回のような動物実験に意味がないわけではありません。人を対象にした研究へ進む前に、生き物の体内でどのような変化が起きる可能性があるのかを調べることは、科学の大切な一歩です。

ただし、それはあくまで一歩です。ラットと人では体の仕組みが違い、食べる量や生活環境も異なります。動物実験で見つかった可能性が、人でも再現されるとは限りません。さらに、今回の実験で使われたのは、特定の乾燥赤味噌を一定割合で加えた飼料です。市販されているすべての味噌や、家庭で飲む一杯の味噌汁に、その結果を当てはめることはできません。

研究の古さについても考える必要があります。古い研究だから価値がないわけではありません。過去にどのような問いが立てられ、どんな方法で調べられたのかを知ることは、研究の歴史を理解するうえで意味があります。

一方で、20年以上前の研究概要だけを根拠に、現在の健康効果を語ることもできません。その後に人での研究が行われたのか、別の研究でも同じ結果が得られたのか、研究方法や評価の基準がどう変わったのか。現在の結論を考えるには、さらに多くの情報が必要です。

そして味噌については、塩分にも目を向けなければなりません。

「体によさそうだから」と味噌の量を増やせば、その分、塩分の摂取量が増える可能性があります。健康を期待して極端な食べ方をするのではなく、だしをきかせる、具だくさんにする、汁を飲みすぎないなど、無理のない工夫を続けるほうが現実的です。

医師から塩分を控えるように言われている人は、一般的な健康情報よりも、まず自分に向けられた医療上の助言を大切にするべきでしょう。味噌が発酵食品だからといって、誰にでも、どれだけ食べてもよいわけではありません。

今回の記事を通して、私はあらためて「研究されている」と「証明されている」の間には、大きな距離があると感じました。

研究がある。それは興味を持つきっかけになります。しかし、公的研究であること、数字が下がっていること、動物で変化が見られたことだけで、人への効果を決めることはできません。

分からないものを、分からないまま伝える。可能性を、可能性の大きさのまま受け止める。それは少し地味ですが、健康や食品について発信するうえで、とても大切な姿勢だと思います。

味噌を薬の代わりに考える必要はありません。特別な効能を期待して量を増やす必要もありません。食文化として、おいしく、塩分には気を配りながら、毎日の食事の一部として楽しむ。それで十分なのではないでしょうか。

研究によって新しい可能性が見つかれば、それは冷静に見守りたい。まだ証明されていないことは、証明されていないと正直に伝えたい。そして、科学的な効能とは別に、味噌汁の香りや温かさを大切にしたい。

効能を大きく語らなくても、味噌の価値は小さくなりません。

一杯の味噌汁には、大豆と麹と塩、微生物の働き、つくり手の経験、地域の文化、そして長い時間が詰まっています。その豊かさを味わいながら、研究については研究が示した範囲で受け止める。

私は、そんな誠実な距離感で、これからも味噌と付き合っていきたいと思います。

※本記事の画像は、味噌と味噌汁(イメージ画像)です。研究で使用された試料や摂取条件を再現したものではありません。


研究が「調べている」ことと、「証明した」こと。その違いを、静かに見分けていたい。

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。