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加熱殺菌した乳酸菌を含むグミ様食品で、歯ぐきの出血指標はどう変わった?6週間の臨床試験
この記事について:本記事は、乳酸菌由来のポストバイオティクスと歯ぐきの炎症に関する臨床研究を紹介するものです。特定の食品が病気を治す・予防すると示すものではなく、医療上の助言でもありません。研究で使われたのは、加熱殺菌した乳酸菌を配合した「グミ様食品」であり、ヨーグルトなどの一般的な発酵乳製品ではありません。歯ぐきの腫れや出血が続く場合、歯周病が心配な場合は、自己判断せず、歯科医師にご相談ください。歯みがきなどの基本的なケアに代わるものでもありません。なお、この研究は企業からの資金提供を受けて実施されています(詳細は本文で説明します)。
「生きた菌が腸まで届く」。
発酵食品やヨーグルトの話題では、そんな言葉をよく目にする。しかし近年、「生きていない菌」にも注目が集まっていることをご存じだろうか。
加熱などで殺菌した菌の菌体や、菌がつくり出した成分は、「ポストバイオティクス」と呼ばれる。生きた菌(プロバイオティクス)とは区別される考え方だ。そのポストバイオティクスを含む食品と、歯ぐきの状態との関わりを調べた臨床試験が、東京科学大学の研究チームによって行われた。
学術誌「Journal of Periodontology」に発表された、この研究を紹介したい。
「ポストバイオティクス」とは何か
まず、言葉を整理しておきたい。
プロバイオティクスは、生きた菌そのものを指す。ヨーグルトや乳酸菌飲料でおなじみの考え方だ。
これに対してポストバイオティクスは、健康上の利益をもたらすことが示された、不活化された微生物やその構成成分を含む製剤を指す。単に菌を加熱しただけで、すべてが自動的にポストバイオティクスになるわけではない。この点は、言葉の使われ方として押さえておきたい。
生きた菌は、保存や輸送のあいだに死んでしまうこともあり、扱いが難しい面がある。その点、加熱殺菌したものは、品質を保ちやすく、さまざまな食品に加えやすい。こうした実用面からも、関心が寄せられている。
なお、私たちが日ごろ口にする発酵食品にも、加熱によって生きた菌が残っていないものは多い。味噌汁は加熱され、パンは焼かれ、加熱殺菌されたヨーグルト飲料もある。ただし、加熱された発酵食品に生きた菌が残っていない場合はあるが、それらが今回の試験食品と同じ成分や作用を持つことを意味するものではない。ここは混同しないようにしたい。
6週間の、無作為化二重盲検プラセボ対照試験
今回の研究は、東京科学大学 医歯学総合研究科 歯周病学分野の岩田隆紀教授、前川祥吾助教らのチームによるものである。
対象になったのは、軽い歯肉炎のある成人だ。試験登録の情報によれば、136人が無作為に割り付けられ、134人が試験を完了している。
使われたのは、加熱殺菌した乳酸菌 Lactiplantibacillus pentosus ONRICb0240 を含む「グミ様食品」である。1粒あたり、加熱殺菌したこの菌を5億個相当ふくみ、参加者は1日4粒を、6週間にわたって摂取した。ヨーグルトなどの乳製品ではない点は、はっきりさせておきたい。
試験の方法にも触れておこう。「無作為化二重盲検プラセボ対照試験」という形で行われた。参加者を偶然によってグループ分けし、本物の食品をとるグループと、見た目が同じで中身の違う(プラセボ)食品をとるグループを比べる。しかも、参加者も、評価する側も、どちらがどちらか分からない状態で進める。思い込みによる偏りを減らすための、信頼性の高い方法とされている。
なお、この試験では、研究のための新たな歯みがき指導や歯科治療は行われず、参加者は普段どおりの口腔ケアを続けた。
歯ぐきの出血の指標に、変化が見られた
では、結果はどうだったか。
歯ぐきの状態を見る指標の一つに、BOP(プロービング時の出血)というものがある。歯ぐきを軽く刺激したときに出血する部位の割合を示す指標だ。
公表論文が示した116人の感度分析では、BOPは介入群で17.6%から12.3%へ、5.3ポイント低下した。開始時を基準にすると約30%の相対的低下に当たる。一方、プラセボ群でも18.9%から16.6%へ低下している。
なお、試験登録に掲載された134人の解析では、BOPの変化量について両群の差は統計的に有意ではなかった(p=0.082)。公表論文では、炎症に影響し得る薬を使用した18人を除いた感度分析が示されている。解析対象によって結果の見え方が異なる点には注意が必要である。
歯肉炎の程度を示す指数(GI)についても、介入群内では開始時より有意に低下したが、プラセボ群との群間差は統計的に有意ではなかった。
つまり、「約30%の低下」という数字は、介入群の中で開始時と比べた変化であって、プラセボ群より30%優れていたという意味ではない。ここは、誤解されやすいところである。
そして、これらは特定の指標の変化であって、「歯周病が治る」ことを示したものではない。歯ぐきの状態を測るいくつかの数値が動いた、という段階の話である。
慎重に読み解くために
この研究を読むうえで、いくつか押さえておきたい点がある。
一つは、期間である。6週間という比較的短い期間の試験であり、長期にわたってどうなるかは、この研究からは分からない。
もう一つは、対象となった人たちだ。参加したのは、軽い歯肉炎のある成人である。重い歯周病のある人に同じことが言えるわけではない。
報告では、特定の属性の人で変化が比較的はっきり見られたとも述べられている。ただし、これらは事前に主要な結論として設定された解析ではなく、事後的な探索分析である。どのような人に効果が出やすいかを確定したものではない。
さらに、この試験では、研究のための歯みがき指導は行われていない。日常の口腔ケアと組み合わせたときにどうなるかは、また別の検証が必要になる。
そして最も大切なこととして、この食品は歯みがきや歯科での治療の代わりになるものではない。歯ぐきの健康の土台は、あくまで日々のていねいなケアと、歯科医師による診察である。
研究の背景として
透明性のために、もう一点お伝えしておきたい。
本研究は大塚製薬の資金提供を受け、著者2名は同社の研究部門に所属している。また、複数の著者が同社から研究助成または業務上の支払いを受けたことを開示している。
企業が研究に関わること自体は、めずらしいことでも、それだけで結果が誤りということでもない。食品や素材の開発には、大学と企業の協力が必要になる場面も多い。大切なのは、そうした関係がきちんと開示されていることと、今後、ほかの研究者による検証が積み重ねられていくことである。
読者としては、「誰が、どのような立場で行った研究なのか」まで含めて知ったうえで、結果を受け止めたい。
口の中の菌と、発酵食品
この研究が示すのは、口の中の環境と菌の関わりが、研究の対象になっているという事実である。
私たちはつい、菌の話題を「腸」に結びつけて考えがちだ。しかし、口の中にもまた、多くの菌が暮らしている。口腔内には数百種類ともいわれる細菌が生息し、一つの生態系をつくっている。歯みがきをしても、それらがすべていなくなるわけではない。
大切なのは、菌をゼロにすることではなく、そのバランスが大きく崩れないようにすることだと考えられている。歯垢(プラーク)がたまり、菌のバランスが偏ることが、歯ぐきの炎症と関わるとされてきた。
発酵食品や乳酸菌の研究が、腸だけでなく口の中にも広がっているのは、そうした背景があるからだろう。口は、食べ物が最初に触れる場所でもある。そこで何が起きているのかを調べることには、確かに意味がある。
とはいえ、くり返しになるが、こうした研究は発展の途上にある。一つの試験の結果だけで、大きな結論を引き出すことはできない。期待される可能性と、確立した事実とは、分けて受け止めたい。
歯ぐきの健康を守る基本は、いまも変わらない。ていねいな歯みがきと、定期的な歯科の受診である。研究がどれだけ進んでも、この土台が揺らぐことはないだろう。
新しい研究の話題は、つい期待をふくらませてくれる。それ自体は、悪いことではない。ただ、その期待が基本のケアを押しのけてしまっては、本末転倒になる。日々の習慣を続けたうえで、科学がどこまで分かってきたのかを、落ち着いて眺めていきたい。
Toshiより
今回の研究を読んで、まず興味をひかれたのは、「生きた菌でなければ意味がない」という考え方が、少しずつ見直されていることです。
乳酸菌と聞くと、私たちはつい、ヨーグルトや乳酸菌飲料に含まれる「生きた菌」を思い浮かべます。「生きて腸まで届く」という言葉も、長いあいだ乳酸菌の価値を伝える代表的な表現として使われてきました。
しかし今回研究されたのは、生きた菌ではありません。加熱殺菌された特定の乳酸菌を含むグミ状の試験食品です。菌が生きていなくても、その菌体を構成する成分などが、体と何らかの関わりを持つ可能性がある。この考え方は、発酵食品を理解するうえでも、とても興味深いものだと思います。
味噌汁は加熱して飲みますし、パンも焼いて食べます。発酵食品だからといって、食べる時点ですべての菌が生きているとは限りません。それでも、発酵の過程でつくられた成分や、菌体に由来するものは食品の中に残ります。
そう考えると、発酵食品の価値を「生きた菌がいるか、いないか」という二者択一だけで判断するのは、少し単純すぎるのかもしれません。生きている菌には生きている菌の特徴があり、加熱された菌には別の研究の可能性がある。今回の研究も、その広がりの一つとして受け止めたいと思いました。
もう一つ印象に残ったのは、乳酸菌研究の対象が「腸」だけではなく、「口の中」にも広がっていることです。
口は、食べ物が最初に触れる場所です。そこには多くの細菌が暮らし、独自の微生物の集まりをつくっています。発酵食品を食べるときも、乳酸菌や発酵によって生まれた成分は、まず口の中を通ります。その最初の接点で何が起きているのかを調べることは、たしかに自然な研究の流れだと感じます。
今回の試験では、歯ぐきからの出血を示すBOPなど、歯肉炎に関係する一部の指標が調べられました。加熱殺菌した特定の乳酸菌を含む食品を摂取したグループでは、BOPが17.6%から12.3%へ変化したと報告されています。
ただし、この数字は慎重に読まなければなりません。約30%という数字は、試験食品を摂取したグループ内での相対的な変化です。プラセボを摂取したグループとの差が30%だった、という意味ではありません。
登録情報では136人が無作為に割り付けられ、134人が試験を完了しています。一方、論文で注目された116人の結果は、特定の薬を使用していた18人を除いた追加的な解析です。登録された主要解析では、BOPのグループ間の差は統計的に明確とはいえませんでした。歯肉炎指数についても、試験食品を摂取したグループ内では変化が見られたものの、プラセボとの間に明確な差が確認されたとは言い切れません。
こうした説明を加えると、研究結果が弱く見えると感じる人もいるかもしれません。しかし私は、むしろ反対だと思います。
良い結果だけを切り取らず、どの解析で差が見られ、どの解析では明確でなかったのかを伝える。そのほうが、研究に対する信頼につながります。科学は「効いた」「効かなかった」の二つに簡単に分けられるものではありません。どのような条件で、どの指標に、どれくらいの変化があったのかを少しずつ確かめていくものだからです。
試験期間が6週間だったことも忘れてはいけません。比較的短い期間に見られた指標の変化であり、その状態が長く続くのかは分かっていません。参加者も軽い歯肉炎のある成人に限られており、重い歯周病のある人や、年齢、生活習慣、服用薬などが異なる人に同じ結果が当てはまるとは限りません。
また、男性やBMIが22以上の人などで変化が目立ったという結果についても、「その人たちに特に効く」と結論づけるのは早いと思います。こうした部分集団の解析は、次の研究課題を探す手がかりにはなりますが、効果を確定するものではありません。
今回の研究には企業が資金を提供し、企業の研究者も著者として参加しています。企業が研究に関わること自体を、悪いことだとは思いません。食品や素材を実際に開発し、人を対象とした試験を行うには、大学と企業の協力が必要な場合もあります。
大切なのは、その関係がきちんと開示されていることです。そして、一つの研究結果だけで判断せず、今後、別の研究者や異なる条件の試験でも同じような結果が得られるかを見ていくことだと思います。資金提供の有無だけで研究を否定するのでもなく、企業が関わっていることを隠して無条件に信じるのでもない。その間で、冷静に結果を読む姿勢を持ちたいものです。
そして何より強調したいのは、この研究が、乳酸菌を含む食品で歯周病が治ることを示したものではないということです。市販のヨーグルトや乳酸菌飲料を食べれば、同じ変化が得られるという研究でもありません。使われたのは特定の菌株を一定量含む試験食品であり、一般的な発酵乳製品にそのまま置き換えることはできません。
歯ぐきの健康を守る基本は、毎日の歯みがき、歯間ブラシなどによる清掃、そして歯科医院での定期的な確認です。出血や腫れ、口臭などが続く場合は、食品に期待して様子を見るのではなく、歯科医師に相談することが大切です。
私が今回の研究から受け取ったのは、「新しい食品だけで口の問題を解決できる」という話ではありません。むしろ、基本のケアを続けながら、その補助となる可能性を科学が少しずつ探している、ということです。
科学の進歩は、ときに魅力的な数字を見せてくれます。しかし、その数字を生活にどう結びつけるかは、私たち自身が落ち着いて考えなければなりません。期待を持つことと、期待しすぎないこと。その両方を大切にしたいと思います。
菌は、生きているか死んでいるかだけでは語れません。腸だけでなく、口の中にも微生物の世界があります。今回の研究は、その奥行きを感じさせてくれました。
ただし、新しい可能性が見つかっても、毎日の基本が変わるわけではありません。私も、まずは目の前の歯みがきを丁寧に続けたいと思います。そのうえで、加熱された乳酸菌と口の健康をめぐる研究が、これからどのように積み重なっていくのか、慎重に見守っていきたいです。
※本記事の画像は、研究テーマを表現したイメージ画像です。実際の試験食品や特定の商品を撮影したものではありません。
※参考:東京科学大学のプレスリリース(https://www.isct.ac.jp/ja/news/w4yrlx7j5yrn)
菌の研究は、腸から口の中へも広がっている。ただし、基本のケアに勝るものはない。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。