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秋田と愛知のたくあんで菌叢に差|気温・塩分・製法が異なる6社の比較(2021年研究)
この記事について:本記事は、2021年に発表された研究論文を紹介するものです。特定の食品が病気を予防・治療する、健康に良いといった効果を示すものではありません。調べられたのは、漬物の製造過程における微生物と成分の関係であり、人が食べたときの健康への影響を比べた研究ではありません。また、漬物は塩分を多く含む食品です。
秋田の「いぶりたくあん」と、愛知の「渥美たくあん」。
どちらも大根をぬかに漬けたたくあんだが、その姿は大きく違う。秋田では、大根を煙でいぶして乾燥させてから漬け込む。愛知では、大根を天日で干してから漬ける。
同じ「たくあん」という名前でも、つくり方も、気候も、塩加減も違う。では、その中で働く微生物の顔ぶれは、どうなっているのだろうか。
この問いを調べた研究が、2021年1月、学術誌「Scientific Reports」に発表された。研究当時の東京工業大学(現在の東京科学大学)の研究者らによるものである。
今回はこの論文を手がかりに、日本の漬物と微生物の関係をのぞいてみたい。
どんな調査だったのか
まず、研究の規模を正確に押さえておきたい。
研究では、2017年から2018年に秋田県と愛知県の計6社から提供された、原料大根、乾燥後の大根、ぬか床、最終製品など29試料が解析された。日本全国のすべてのたくあんを代表する調査ではない。
秋田側3社、愛知側3社。それぞれの製造の流れに沿って、どの段階でどんな微生物がいるのかを、ゲノム解析によって調べている。
実際に販売されている商業製品の製造過程を、段階ごとに追いかけた研究である。実験室で条件をそろえた試験とは違い、現場のありのままを記録した点に特徴がある。
原料では差がなく、最終製品では違いが出た
報告された結果のなかで、特に興味深いのが、違いが生まれるタイミングである。
原料の大根の段階では、地域による明確な菌叢の差は確認されなかった。ところが、漬け込みを終えた最終製品では、微生物の顔ぶれに違いが見られたという。
つまり、「秋田の大根にはもともと秋田の菌が、愛知の大根には愛知の菌がいた」という単純な話ではない。乾燥され、ぬか床に漬けられ、時間をかけて発酵していく過程のなかで、菌の構成に違いが生まれていた、ということになる。
地域の漬物の個性は、原料だけで決まるのではなく、つくる工程のなかで形づくられていく可能性がある。そう読み取れる結果である。
検出された菌の違い
具体的には、どのような違いだったのか。
秋田側の最終製品では、多様な属の細菌が検出された。一方、愛知側では、乳酸菌や好塩性細菌が高い割合を占めていた。
ここで注意しておきたいことがある。「菌の種類が多いほうが優れている」「乳酸菌が多いほうが健康によい」といった判断は、この研究からはできない。調べられたのは、製造過程における微生物と成分の関係であり、人が食べたときの健康への影響を比べたものではない。
菌の多様性は、それ自体が味のおいしさや健康へのよさを保証するものではない。腸内細菌の研究と同じように、ここは慎重に受け止めたい。
気候だけが原因、とは言えない
地域による違いと聞くと、「寒い秋田と暖かい愛知だから」と考えたくなる。しかし、そう単純ではない。
秋田と愛知では、気温だけでなく、いくつもの条件が異なっていた。大根の乾燥方法(燻煙乾燥と天日乾燥)、製造期間、各社のつくり方。そして、塩分濃度である。
報告によれば、最終製品の塩分は、秋田側が平均約3.6%、愛知側が平均約10%だった。この差は小さくない。塩分濃度は、どの菌が生き残れるかを大きく左右する条件だからだ。
つまりこの研究は、気候だけの影響を切り分けた実験ではない。気温、塩分、乾燥方法、時間など、複数の条件が重なった結果として、それぞれの菌叢が生まれたと考えるのが自然である。
一つの分かりやすい原因に飛びつかず、複数の要因が絡み合っていると受け止めたい。
うま味成分との関連
もう一つ報告されているのが、成分との関連である。
愛知側の試料では、Halomonas などの好塩性細菌と、グルタミン酸の濃度との間に関連が見られたという。グルタミン酸は、うま味に関わる成分としてよく知られている。
ただし、これも「その菌がグルタミン酸をつくった」と直接証明したわけではない。菌の相対的な割合と成分量の関係から、その可能性が示された段階である。論文でも、特定の菌を培養して確かめるなど、さらに詳しい研究が必要だとされている。
「関連が見られたこと」と「原因として証明されたこと」は違う。この線引きは、科学の情報を読むうえで欠かせない。
発酵は、条件の積み重ね
この研究を読んで感じるのは、発酵という営みの複雑さである。
原料には、もともと多様な微生物が付着している。ぬか床にも菌がいる。漬け込むと容器の中の酸素が減り、乳酸などの酸が増え、塩分の影響も受ける。時間の経過とともに、ある菌が増え、別の菌が減っていく。
その変化の積み重ねが、最終的な香りや酸味、食感につながっていく。発酵とは、一つの菌がすべてを決めるのではなく、さまざまな条件と微生物が関わり合う営みなのである。
秋田と愛知の違いも、そうした複雑な過程の結果として現れたものだろう。
漬物と塩分について
漬物を語るうえで、避けて通れないのが塩分である。
今回の研究でも、最終製品の塩分は平均で3.6%から10%と報告されている。種類や製法によって幅はあるが、漬物が塩分を含む食品であることは確かだ。
「発酵食品だから体に良い」というイメージだけで量を増やせば、塩分のとりすぎにつながる可能性がある。ごはんのお供として、小さな一皿を味わう。昔ながらの食べ方には、そうした知恵も含まれていたのだろう。
血圧が気になる方や、医師から塩分を控えるよう言われている方は、量に気を配っていただきたい。
その土地の製法と、菌叢と
この研究に触れて感じるのは、日本の食文化の奥行きである。
各地に伝わる漬物は、それぞれの気候、土地の作物、受け継がれてきた製法によって形づくられてきた。雪深い地域で大根を屋外に干せなければ、囲炉裏の煙で燻すという方法が選ばれる。温暖で晴天の多い地域なら、天日で干せる。
そうした製法の違いが、菌の働く環境をつくり、結果として最終製品の菌叢にも表れている。今回の研究は、その一端をデータで示したものと言える。
もっとも、これは限られた条件での調査である。別の年、別のメーカー、別の仕込みでは、違う結果になる可能性もある。
それでも、実際に売られている商業製品の製造過程から、こうした違いを示したことには意味があると思う。地域の味を、イメージだけでなく、微生物や成分のデータから見ようとする試みである。
次に旅先で地元の漬物を口にするとき、その土地の気候や製法、そして目に見えない菌のことを、少しだけ想像してみたい。
Toshiより
今回の記事を読んで、私が最初に感じたのは、日本の漬物は、その土地の気候や暮らしを映す「食べられる記録」のようなものだ、ということです。
秋田のいぶりたくあんと、愛知の渥美たくあん。どちらも大根をぬかに漬けてつくるたくあんですが、見た目も香りも、つくられる工程も違います。
秋田では、大根を煙でいぶして乾燥させてから漬け込みます。一方、愛知では、比較的温暖で晴天の多い気候を生かして、大根を天日で干してから漬けます。
同じ大根を保存するにも、雪の多い土地と、冬でも比較的温暖な土地では、選ばれる方法が違う。その土地で無理なく続けられる方法が、長い時間をかけて地域の漬物として定着してきたのだと思います。
今回紹介した2021年の研究では、秋田県と愛知県の計6社から提供された、原料の大根、乾燥後の大根、ぬか床、最終製品などが調べられました。その結果、原料の段階では地域による明確な菌叢の差が確認されなかった一方、漬け込みを終えた最終製品では、微生物の顔ぶれに違いが見られたといいます。
この結果は、とても興味深いものです。
最初から秋田の大根には秋田特有の菌がいて、愛知の大根には愛知特有の菌がいた、という単純な話ではありません。大根が乾燥され、ぬか床に漬けられ、時間をかけて発酵していくなかで、菌の構成に違いが生まれていたのです。
つまり、地域の漬物の個性は、原料だけで決まるのではなく、つくる工程のなかで形づくられていく可能性があります。
ただし、ここで「気候だけが菌の違いを生んだ」と決めつけてはいけないと思います。
秋田と愛知では、気温だけでなく、大根の乾燥方法、塩分濃度、漬け込む時期、製造期間、各メーカーのつくり方など、さまざまな条件が異なっていました。秋田側の最終製品の塩分は平均約3.6%、愛知側は平均約10%と報告されており、この差も、どの菌が生き残りやすいかに大きく関わるはずです。
寒いか暖かいかだけではなく、塩分、酸素、乾燥方法、時間など、複数の条件が重なった結果として、それぞれの菌叢が生まれたのでしょう。
私は、この複雑さに発酵の面白さがあると思います。
私たちは、科学的な研究の結果を聞くと、つい一つの分かりやすい原因を求めたくなります。「寒いからこうなった」「塩分が高いからこの菌が増えた」と、一つの答えにまとめたくなります。
しかし、実際の発酵食品は、それほど単純ではありません。
原料には最初から多様な微生物が付着しています。ぬか床にも菌がいます。漬け込むと酸素が減り、乳酸などの酸が増え、塩分の影響も受けます。時間の経過とともに、ある菌が増え、別の菌が減っていきます。
その変化の積み重ねが、最終的な香り、酸味、うま味、歯触りなどにつながっていく。発酵とは、一つの菌がすべてを決めるのではなく、さまざまな条件と微生物が関わり合う営みなのだと思います。
研究では、秋田側の最終製品からは、比較的多様な種類の微生物が検出されました。一方、愛知側では、乳酸菌や好塩性細菌が高い割合を占めていました。
ここでも、「菌の種類が多い方が優れている」「乳酸菌が多い方が健康によい」といった判断はできません。今回調べられたのは、漬物の製造過程における微生物と成分の関係です。人が食べたときの健康効果を比べた研究ではありません。
菌の多様性は、それ自体が味のおいしさや健康へのよさを保証するものではない。この点は、腸内細菌の研究と同じように、慎重に受け止めたいと思います。
愛知側の試料では、Halomonasなどの好塩性細菌と、グルタミン酸の濃度との間に関連が見られました。グルタミン酸は、うま味に関わる成分です。
けれど、これも「その菌がグルタミン酸をつくった」と直接証明したわけではなく、菌の相対的な割合と成分量の関係から、その可能性が示された段階です。論文でも、特定の菌を培養して確かめるなど、さらに詳しい研究が必要だとされています。
科学の情報を読むときには、「関連が見られたこと」と「原因として証明されたこと」を分ける必要があります。
この違いは、少し面倒に感じられるかもしれません。しかし、この小さな線引きを大切にすることが、研究を必要以上に大きく見せないために欠かせないのだと思います。
私は漬物が好きです。
たくあん、野沢菜漬、しば漬け、高菜漬。旅先で地元の漬物が出てくると、つい手を伸ばしてしまいます。同じ大根や葉物野菜でも、地域によって塩味、酸味、香り、食感が違います。
これまでは、そうした違いを「土地ごとの味」として何となく楽しんでいました。しかし今回の研究を知ると、その背景にある製造環境や微生物のことまで想像したくなります。
雪の多い地域では、どのように野菜を保存したのか。温暖な地域では、どの季節に、どれくらいの塩を使って漬けたのか。冷蔵庫のない時代に、食べ物を安全に長く保存するため、人々はどんな工夫を重ねたのか。
地域の漬物は、単なる料理ではなく、気候に合わせて暮らしてきた人々の知恵の積み重ねです。そして、その知恵の中で、人間は存在を知らないまま微生物の力を利用してきました。
発酵を科学的に調べることは、昔の知恵を否定することではありません。なぜその方法でうまくいったのかを、現代の言葉で読み解く作業なのだと思います。
一方で、漬物は塩分を多く含むものがあります。発酵食品だからという理由で、たくさん食べればよいわけではありません。
私も漬物を食べるときは、ごはんのお供として少量を味わうようにしています。強い塩味や酸味があるからこそ、一切れでも食卓の印象を変えてくれます。
健康効果を期待して量を増やすのではなく、食文化として、おいしく無理のない範囲で楽しむ。その付き合い方が、いちばん自然だと思います。
今回の研究は、日本全国のすべてのたくあんを調べたものではありません。秋田と愛知の6社から提供された試料を、特定の時期に調べた研究です。別の年、別のメーカー、別の仕込みでは、違う結果になる可能性もあります。
それでも、製造条件によって最終製品の菌叢に違いが生まれることを、実際の商業製品の製造過程から示したことには、大きな意味があると思います。
地域の味を、単なるイメージや宣伝文句ではなく、微生物や成分のデータから見ようとする。そうした研究が積み重なれば、それぞれの地域の漬物が持つ個性を、もっと丁寧に説明できるようになるかもしれません。
そして、それは地域の食文化を守ることにもつながるでしょう。
つくり手が減り、昔ながらの製法が失われれば、その工程で育まれてきた微生物の組み合わせも失われる可能性があります。製法と菌叢を記録しておくことは、味の背景にある目に見えない文化を残すことでもあると思います。
次に旅先で漬物を食べるときは、味だけでなく、その土地の冬の寒さ、日差し、塩加減、漬け込まれた時間まで、少し想像してみたいです。
「その土地の菌が、その土地の味をつくる」と単純には言えません。それでも、その土地の環境と製法が、漬物の菌叢に表れている可能性はあります。
一切れのたくあんの中にも、気候、歴史、人の知恵、そして微生物の営みが重なっている。
今回の記事は、いつもの漬物を、少し違う角度から味わうきっかけをくれました。
※本記事の画像は、日本の漬物を表現したイメージ画像です。研究で分析された特定の商品を撮影したものではありません。
その土地の製法と環境は、漬物の菌叢にも表れているのかもしれない。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。