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発酵性食物繊維を加えた試験食品を4週間とると?健康な成人105人を解析した比較試験
この記事について:本記事は、食物繊維に関する臨床研究を紹介するものです。特定の食品が病気を予防・治療する、健康に良いといった効果を示すものではなく、医療上の助言でもありません。研究で使われたのは、イヌリンなどを加えた食物繊維強化食品であり、一般的な野菜や海藻を比較した試験ではありません。対象は健康な成人であり、すべての人に当てはまるとは限りません。お腹の不調が続く場合は、自己判断せず、医師などの専門家にご相談ください。なお、この研究には食品企業が関与しています(本文で説明します)。
発酵という言葉を聞くと、私たちは味噌や納豆、ヨーグルトを思い浮かべる。
しかし、発酵が起きるのは、樽やヨーグルトの容器の中だけではない。私たちの大腸の中でも、腸内細菌による発酵が日々起きている。そのときエサになるのが、食物繊維である。
なかでも、腸内細菌が利用しやすいものを「発酵性食物繊維」と呼ぶ。食物繊維にはいろいろな種類があり、腸内細菌に利用されやすいものと、そうでないものがある。
この発酵性食物繊維をとると、腸の中で何が起きるのか。それを調べた臨床試験の結果が、学術誌「Microorganisms」に2025年9月に発表された。
摂南大学農学部の井上亮教授を筆頭著者とし、ミツカン、京都府立医科大学が参加した共同研究である。
今回はこの論文を手がかりに、「腸内細菌のエサ」という視点から発酵を考えてみたい。
105人を解析した、4週間の比較試験
まず、この研究の設計を見ておきたい。
110人を、食物繊維量の異なる2種類の試験食品群に無作為に分け、5人を除外して、低食物繊維群53人、高食物繊維群52人の計105人を解析している。両群とも食物繊維を含むため、無食物繊維のプラセボと比較した試験ではない。
期間は4週間。ランダム化二重盲検という設計で、参加者も評価する側も、どちらの食品かが分からない状態で進められた。思い込みによる偏りを減らすための方法である。
試験では、シリアル、茶飲料、クッキー、麺、ワッフルなどの食物繊維強化食品が使用された。高食物繊維群の食品には、主にイヌリンのほか、難消化性デキストリンやイソマルトオリゴ糖が含まれていた。
つまり、一般的な野菜や海藻を食べ比べた研究ではない。ここは、結果を受け止めるうえで大切な前提である。
試験食品から摂取した量は、次のように設定された。
- 低食物繊維群:総食物繊維 2.2g/日(うち発酵性食物繊維 1.2g/日)
- 高食物繊維群:総食物繊維 8.2g/日(うち発酵性食物繊維 6.4g/日)
なお、高食物繊維群の8.2gは、普段の食事とは別に試験食品から追加された1日平均量である。1日の総摂取量ではない。参考までに、成人の食物繊維の目標量は、年齢・性別によりおおむね男性20〜22g以上、女性18g以上とされている。
短鎖脂肪酸に関わる菌が増えた
報告された結果を見ていこう。
高食物繊維群では、Bifidobacterium(ビフィズス菌)の相対存在量が低食物繊維群より高くなった。AnaerostipesとFusicatenibacterにも、開始前からの変化が見られている。ただし、解析は主に属レベルであり、それぞれの菌が実際にどれだけ短鎖脂肪酸をつくったかを直接証明したものではない。
短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維を発酵させるときに生み出す物質のことだ。酢酸、酪酸、プロピオン酸などが代表として知られる。上に挙げた菌は、いずれも短鎖脂肪酸に関わるとされる菌である。
また、菌の相対存在量どうしの相関から、菌同士が関わる可能性が推測されている。実際の物質の受け渡しを直接観察した結果ではない。
短鎖脂肪酸は、腸の粘膜のエネルギー源になったり、腸内を弱酸性に保ったりする働きが研究されてきた。腸の健康を語るうえで、近年もっとも注目されている物質のひとつである。ただし、その働きのすべてが解明されているわけではない。
食物繊維をとることで、それをエサにできる菌が増える。考えてみれば自然な話だが、それが4週間という期間で、105人という規模で実際に測定されたという点に、この研究の意味がある。
排便関連QOLは両群で改善、明確な群間差は確認されず
体感に関わる部分は、どうだったのか。ここは、もっとも慎重に読み取りたいところである。
JPAC-QOLは、低食物繊維群と高食物繊維群の両方で、開始前より改善した。高食物繊維群では一部項目の変化や効果量が大きい傾向が見られたが、質問票では、事前に定めた基準を満たす明確な群間差は確認されなかった。したがって、追加した発酵性食物繊維だけで改善したと断定することはできない。
両方のグループで改善した、という点が重要である。低食物繊維群も試験食品を食べており、また、試験に参加していること自体が生活を意識させた可能性もある。「多くとったほうが良かった」と言える結果ではない。
一方、睡眠(OSA-MAという指標)と肌については、効果は限定的とされている。有益とされる菌との相関が観察された、という報告にとどまる。
「発酵性食物繊維をとれば、よく眠れて肌がきれいになる」という結果ではない。増えた菌の割合と、睡眠や肌のスコアとの間に相関が見られた、という段階の話である。
相関があることと、原因と結果の関係があることは違う。この研究でも、睡眠や肌への効果が確かめられたとまでは言えない。
研究の範囲
この研究の範囲についても、押さえておきたい。
対象は健康な成人105名であり、期間は4週間である。論文でも、短期の介入であり、より長期的な研究によって、より広い健康効果が期待されると述べられている。裏を返せば、この試験だけで長期的な影響は分からない、ということでもある。
また、健康な成人が対象である。病気のある人や、年齢層の大きく異なる人に、同じことが言えるとは限らない。
著者5人のうち3人はミツカンの社員で、同社が販売する食物繊維強化食品が試験に使用された。また、摂南大学の著者は同社から共同研究費を、京都府立医科大学の著者は奨学寄附金を受けたと論文で開示されている。この関係だけで結果が否定されるものではないが、研究を受け止めるための背景情報として記しておく。
発酵食品と、食物繊維と
この研究を読んで、あらためて考えたことがある。
このブログでは、味噌や納豆、ぬか漬けといった発酵食品をよく取り上げてきた。それらは、微生物が食材を変えてくれた食品である。
一方、今回の研究が扱っているのは、私たちの腸の中で起きる発酵だ。食物繊維という材料を、腸内細菌が発酵させる。いわば、体の中に発酵の場がある、という見方である。
菌を「入れる」ことと、菌のエサを「届ける」こと。発酵食品と食物繊維は、そのどちらにも関わっている。納豆にも、味噌の原料である大豆にも、食物繊維は含まれている。漬物にすれば、野菜の繊維をとることにもなる。
発酵食品を食べることを、菌を取り入れる行為としてだけでなく、腸の中の発酵を支える材料を届ける行為としても見る。そうすると、日々の食卓の見え方が少し変わってくる。
食卓へのささやかなヒント
もっとも、特別なことをする必要はないだろう。
野菜、豆、海藻、きのこ、穀類は、日常の食事で食物繊維をとる代表的な選択肢である。ただし、これらの食品で今回の試験食品と同じ変化が得られるかは、この研究では調べられていない。
今回使われたのは、イヌリンなどを加えた食物繊維強化食品である。同じ「食物繊維」という言葉でも、種類や形が違えば、腸内での振る舞いも変わりうる。研究の結果を、そのまま食卓の野菜に置き換えて考えることはできない。
それでも、日々の食事で食物繊維を意識すること自体には、意味があると思う。多くの日本人は、目標量に届いていないと言われている。
ただし、食物繊維を急に大量にとると、お腹が張ったり、かえって不快に感じたりすることもある。人によって、合う量や種類は違う。自分の体の反応を見ながら、少しずつ試していくのがよいだろう。
そして、繰り返しになるが、お腹の不調が続くときは、食品で解決しようとする前に、医療機関で相談していただきたい。
一杯の味噌汁に、わかめと豆腐を入れる。それだけで、発酵食品と食物繊維の両方が食卓にのる。研究が示した範囲を超えて期待しすぎず、それでも日々の食事を少していねいにする。そんな距離感が、私にはちょうどよい。
Toshiより
今回の研究を読んで、私がいちばん面白いと感じたのは、「発酵は食品をつくる場所だけで起きているのではない」ということです。
味噌や納豆、ヨーグルトを見れば、微生物が食品を発酵させていることは想像できます。しかし、私たちが野菜や豆、穀物などを食べたあと、大腸に届いた食物繊維を腸内細菌が利用する過程も、発酵の一つです。自分の体の中にも、小さな発酵の場がある。そう考えると、毎日の食事が少し違って見えてきます。
この研究では、健康な成人を、食物繊維量の異なる試験食品をとる二つのグループに分け、4週間後の腸内細菌や排便に関する生活の質などを調べています。110人が割り付けられ、そのうち105人が解析の対象になりました。
高食物繊維群がとったのは、主にイヌリンのほか、難消化性デキストリンやイソマルトオリゴ糖などを加えた食物繊維強化食品です。一般的な野菜や海藻を自由に食べた研究ではありません。この違いは、研究を受け止めるうえで大切だと思います。
結果を見ると、高食物繊維群では、Bifidobacteriumなど、一部の腸内細菌の割合に変化が見られました。食物繊維を利用する菌や、短鎖脂肪酸との関わりが研究されている菌の動きが観察されたことは、興味深い結果です。
一方、排便に関する生活の質は、高食物繊維群だけでなく、低食物繊維群でも開始前より改善していました。高食物繊維群の一部項目では、変化や効果量が大きい傾向も見られましたが、質問票全体として明確な群間差が確認されたわけではありません。
この部分を知ると、「発酵性食物繊維を多くとれば、必ずお腹の調子がよくなる」と単純には言えないことが分かります。低食物繊維群にも食物繊維が含まれていたことや、試験に参加したことで食事や排便への意識が変わった可能性など、いろいろな要因を考える必要があります。
睡眠や肌についても同じです。一部の菌の割合と、睡眠や肌に関するスコアとの間に相関が見られましたが、食物繊維によって睡眠が改善した、肌がきれいになったと確認されたわけではありません。
私たちは「腸と睡眠」「腸と肌」という言葉を聞くと、つい一つの物語として結びつけたくなります。腸内細菌を整えれば、よく眠れて、肌の状態もよくなる。そんな分かりやすい話は、とても魅力的です。
しかし、科学では、魅力的な物語と、実際に確認された事実を分けて考える必要があります。二つの数値が一緒に動いたとしても、片方がもう片方の原因とは限りません。別の生活習慣や体質が、両方に関係している可能性もあります。
私は、こうした「まだ分からない」という部分も、研究の面白さだと思っています。何も分からないのではなく、次に何を確かめればよいのかが少しずつ見えてくる。4週間では分からなかったことを、もっと長い期間で調べる。異なる年代や体質の人でも確かめる。菌の割合だけでなく、実際につくられた代謝物も詳しく調べる。科学は、そうした積み重ねで進んでいくものなのでしょう。
また、この研究にはミツカンの社員が著者として参加し、同社が販売する食物繊維強化食品が使われています。大学の研究者への研究費や寄附金についても、論文で開示されています。
企業が参加しているから研究が信用できない、ということではありません。商品や食品の研究には、企業の技術や資金が必要になることもあります。ただ、誰が研究に参加し、何が使われ、どのような関係があるのかを知ったうえで結果を見ることは大切です。良い結果だけを見るのではなく、その背景も含めて受け止めたいと思います。
では、私たちは毎日の食卓で何をすればよいのでしょうか。
今回の研究だけから、「海藻を食べれば同じ菌が増える」「豆やきのこで同じ結果が得られる」とは言えません。試験で使われたのは、特定の種類の食物繊維を加えた食品だからです。
それでも、野菜、豆、海藻、きのこ、穀類などが、日々の食事で食物繊維をとるための大切な選択肢であることは変わりません。研究で使われた食品と、いつもの食材を同じものとして扱わず、それぞれの役割を分けて考えることが大切だと思います。
私の場合、特別なものを大量にとるよりも、いつもの食事に少しずつ足していくほうが続けやすいです。味噌汁にわかめやきのこを入れる。納豆にねぎを添える。ごはんに雑穀を混ぜる。豆や野菜のおかずを一品加える。そうした小さな工夫なら、無理をせずに続けられます。
ただし、食物繊維は多ければ多いほどよい、というものでもないでしょう。急に量を増やすと、お腹が張ったり、ガスが増えたり、不快に感じたりする人もいます。体質や普段の摂取量によって、合う量や種類は違います。
健康情報を見て、昨日までほとんど食べていなかったものを、今日から急に大量にとる。私は、そうした極端な変化には慎重でいたいと思っています。体の反応を見ながら、少しずつ増やす。合わないと感じたら無理をしない。症状が続くなら、食品だけで解決しようとせず、医療機関に相談する。そのくらい落ち着いた付き合い方がよいのではないでしょうか。
発酵食品についても、一つだけを食べ続ければよいとは考えていません。味噌、納豆、ぬか漬け、ヨーグルトには、それぞれ異なる原料と製法があります。加熱されているものもあれば、生きた菌が残っているものもあります。さらに、食物繊維を多く含むものもあれば、ほとんど含まないものもあります。
「発酵食品だから菌を入れられる」「食物繊維だから必ず腸内細菌が整う」という単純な話ではありません。いろいろな食品を組み合わせ、食事全体で考えることが大切なのでしょう。
私は、発酵食品を薬の代わりとして食べているわけではありません。味噌汁の香りが好きで、納豆の味が好きで、ぬか床が少しずつ変化していく様子が面白いから続けています。そこに野菜や豆、海藻などを組み合わせることで、食卓が豊かになります。
そして、食事だけですべてを解決しようとも思っていません。私はジョギングも続けています。体を動かし、きちんと眠り、食事を楽しむ。健康は、一つの食品や一種類の菌ではなく、毎日の生活全体からつくられていくものだと思うからです。
腸内細菌の研究が進むほど、万人に共通する一つの正解ではなく、人による違いが見えてくるのかもしれません。だからこそ、派手な効果を期待して一つの食品に頼るより、自分が無理なく続けられる食卓を整えていきたいと思います。
腸の中で起きる発酵は、目には見えません。それでも、毎日食べたものを材料に、無数の菌が働いています。その小さな営みを思い浮かべながら、今日も味噌汁にわかめやきのこを入れる。私にとっては、そんな地味な一杯こそが、いちばん現実的で長く続けられる「腸との付き合い方」なのだと思います。
※本記事の画像は、食物繊維を含む食材を表現したイメージ画像です。研究で使用された試験食品(イヌリンなどを加えた食物繊維強化食品)や特定の商品を撮影したものではありません。
腸の中でも、発酵は起きている。そのエサを届けるのは、いつもの食卓だ。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。