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納豆の「後熟」の24時間に何が起きているか|発酵前後を比べた食品分析


この記事について この記事は、査読付き学術誌に掲載された食品分析の研究を紹介するものです。特定の食品が病気を予防・改善することを示すものではなく、医療上の助言でもありません。体調や持病、服薬中のお薬に関わることは、必ず医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。記事中の画像はイメージであり、研究で使われた試料や特定の商品を撮影したものではありません。

納豆づくりの工程は、大きく二つに分けて説明されることがある。ひとつは、蒸した大豆に納豆菌を加えて温かい場所に置く「発酵」。もうひとつは、そのあと低温に移してしばらく置く「後熟(こうじゅく)」と呼ばれる段階である。

この後熟の時間に、納豆の中では何が起きているのか。2026年1月に学術誌『Foods』に掲載された研究が、加熱しただけの大豆・発酵させた直後の納豆・後熟を終えた納豆という三つの状態を並べて比較している。今回はこの報告を紹介したい。

はじめに一点、断っておきたいことがある。納豆の製造工程には、発酵のあとに低温で冷却・熟成させる段階がある。ただし、市販品のパックに書かれた「要冷蔵」は、表示された品質と安全性を保つための保存条件であって、家庭で熟成を進めることを意味するものではない。以下で紹介するのは、あくまで実験室で条件をそろえてつくられた納豆の話である。

何をどう調べた研究なのか

研究を行ったのは、中国・吉林省の農業科学研究機関に所属するチームである。掲載は査読付きの国際学術誌『Foods』(2026年1月9日付、Vol.15, No.2, 237)、DOIは 10.3390/foods15020237 となっている。

まず前提として押さえておきたいのは、これは食品そのものの成分を測った分析研究であり、人が食べてどうなるかを調べたヒト試験ではないという点だ。動物実験でもない。あくまで「納豆という食品が、つくられる過程でどう変化していくか」を化学的に追いかけた研究である。この区別は、記事を読むうえで大切なので最初に書いておきたい。

条件はシンプルだ。蒸した大豆に Bacillus subtilis natto(納豆菌)の JLCC513 という菌株を加え、37℃で24時間発酵させる。そのあと4℃で24時間置く。この三段階――加熱しただけの大豆、発酵24時間後、後熟24時間後――をそろえて、成分・色・食感を測っている。

もう一点、数字の読み方について補足しておきたい。脂質・糖・タンパク質といった基本的な栄養成分は、試料を凍結乾燥させた状態で測定されている。市販の納豆パックに書かれている「100gあたり」の栄養表示は、そのまま食べられる状態での数値なので、この記事に出てくる数字と直接比べることはできない。あくまで「三つの状態のあいだで、どちらに動いたか」を見るための数字として読んでいただきたい。

タンパク質は「増えた」というより「溶けやすくなった」

結果のなかで、いちばん見どころがあるのはタンパク質の変化だと思う。

総タンパク質の量そのものは、加熱大豆で100gあたり35.85g、発酵後で38.23g、後熟後で37.28gと報告されている。数字としては一度上がって、わずかに下がる。大きくは動いていない。

ところが、水に溶けるタンパク質(水溶性タンパク質)を見ると様子が変わる。加熱大豆で4.56g、発酵後で8.54g、後熟後で9.81g。発酵の前と後熟の後では、およそ2倍以上になっている。

つまり、タンパク質の総量が劇的に増えたわけではない。納豆菌が出す酵素が、大きなかたまりだったタンパク質を細かくほどいていった、と考えるとイメージしやすい。そして注目したいのは、この「ほどく」働きが、低温に移したあとの24時間でも止まっていないことだ。数字は発酵直後の8.54gから、後熟後の9.81gへとさらに伸びている。

うま味に関わる遊離アミノ酸は4倍に

同じ流れは、遊離アミノ酸の測定値にもっとはっきり表れている。

遊離アミノ酸というのは、タンパク質から切り離されて単独になったアミノ酸のことで、食べたときのうま味や甘味に関わるとされる成分だ。報告された数値は、加熱大豆が100gあたり151.0mg、発酵後が427.9mg、後熟後が615.7mg。加熱大豆と比べると、後熟を終えた時点で4倍前後にまで増えている。

ここでも、発酵の24時間で終わりではない。427.9mgから615.7mgへ、後熟の24時間でさらに1.4倍ほど増えた計算になる。

ただし、慎重に読みたい。後熟中にも、うま味や甘味に関係しうる遊離アミノ酸や香気成分が変化していた、というところまでが、この研究が示していることだ。実際に人が食べて「おいしい」と評価したことまで示した研究ではない。

なお、この研究ではGABA(γ-アミノ酪酸)という成分の量も測られており、加熱大豆で100gあたり5.66mg、発酵後で91.54mg、後熟後で111.96mgと報告されている。これも食品中の含有量を測った数字であって、この研究が人での働きを調べたわけではない点を、あらためて申し添えておきたい。

脂質と糖はゆるやかに減っていく

一方で、減っていく成分もある。

脂質は、加熱大豆で100gあたり17.7g、発酵後で16.55g、後熟後で15.58g。還元糖は1.46g、1.24g、0.92gと推移している。どちらも、菌が活動するためのエネルギー源として使われていったと考えるのが自然だろう。

劇的な減り方ではないが、発酵という現象が「何かが足されるだけの工程ではない」ことがよくわかる数字だと思う。菌が大豆の中の成分を使い、その代わりに別の成分を残していく。その差し引きの結果が、私たちの知っている納豆の姿になっている。

色と食感の変化は、主に発酵の段階で起きていた

見た目と食べ心地についても測定されている。

色の明るさを示すL値は、加熱大豆の58から発酵後には47へ、後熟後には45.59へと下がった。数字が下がるほど暗くなるので、白っぽい大豆から、あの黄褐色へ変わっていく過程が数値でも追えたことになる。

食感のほうは、硬さが加熱大豆の732.82gから発酵後517.22g、後熟後515.94gへと下がった。粘りけを示す指標は−14.95から−56.567、−59.07へと変化し、弾力性は40.2%から78.31%、78.18%へと上がっている。

ここで数字をよく見ると、硬さ・付着性・弾力性は、発酵直後と後熟後でほとんど変わっていない。つまり、食感の指標に見られた大きな変化は、主に発酵の段階で起きていたことになる。成分のほうは後熟中も動き続けていたが、食感については発酵の24時間でおおむね決まっていた、という読み方になる。

ナットウキナーゼについて、わかること・わからないこと

この研究では、納豆に含まれる酵素「ナットウキナーゼ」の活性も測られている。加熱しただけの大豆では検出されず、24時間の発酵後に1gあたり2434.22 IU(国際単位)に達した、と報告されている。後熟の段階でもさらに増えたとされているが、具体的な数値は表に示されていない。

ここで慎重に書いておきたいのは、これはあくまで「酵素としての働きの強さ」を試験管の中で測った数字だということだ。この研究は、人が納豆を食べたときに体の中で何が起きるかを調べたものではない。ナットウキナーゼについては世の中にさまざまな情報が流通しているが、本研究から健康への効果を読み取ることはできない。

この研究の限界

紹介してきたとおり、この研究には明確な線引きがある。

第一に、食品の成分分析であって、ヒト試験ではない。「納豆を食べると体がこうなる」という話は、この研究からは一切出てこない。

第二に、調べられたのは特定の1菌株(JLCC513)を使い、37℃24時間・4℃24時間という決められた条件でつくられた納豆である。市販されている納豆も、家庭で手作りする納豆も、菌株や温度・時間はさまざまだ。数値がそのまま当てはまるとは限らない。

第三に、すでに製造工程を終えた市販品を、家庭でさらに置いた場合にどうなるかは、この研究では検証されていない。安全な製法や保存期間についても、調べられていない。

第四に、資金と利益相反について。この研究は吉林省の科学技術発展計画(課題番号20240404004ZP)による公的資金で行われ、著者らは利益相反がないと明記している。特定の企業の資金による研究ではない点は、背景情報として記しておきたい。

食卓に持ち帰れること

研究の限界をふまえたうえで、言えそうなことを整理しておきたい。

今回観察された変化は、特定の菌株と製造条件によるものである。市販品を家庭で長く置けば同じ変化が得られる、という意味ではない。市販品は、表示された保存方法と期限に従いたい。

そのうえで、ひとつ言えるとすれば、発酵食品づくりにおける「時間」の役割だろうか。菌を加えて温めた24時間だけでなく、そのあと低温に置いた24時間にも、成分は動き続けていた。発酵とは、目に見えないところで段階を踏んでいく現象なのだと、数字の並びがあらためて教えてくれる。

最後に、納豆を日常的に食べるときの注意点を二つ。

ひとつは塩分である。納豆そのものの塩分は多くないが、付属のタレや醤油をかければ話は別になる。血圧などで塩分制限を受けている方は、かかりつけの医師や管理栄養士にご相談いただきたい。

もうひとつは、お薬との関係だ。血液を固まりにくくする薬「ワルファリン」を服用している方は、納豆を食べないよう案内されている。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、納豆がこの薬の作用を弱めるため、服用中は間隔を空けても食べないよう説明している。該当する方は、必ず主治医・薬剤師の指示に従っていただきたい。

発酵という工程が、菌にまかせて待つだけの単純な時間ではないこと。ひとつの研究からわかることは限られているが、日々食べているものの成り立ちが少しずつ数字で描かれていくのは、発酵という営みの奥行きを感じさせる。


Toshiより

納豆は、できあがった瞬間から動きを止める食品ではない。今回の研究を読んで、まず心に残ったのはそのことでした。蒸した大豆に納豆菌を加え、温かい環境で発酵させる。そこで一度、納豆は完成したように見えます。けれども、冷蔵庫に移して低温で休ませる「後熟」の時間にも、食品の中では成分の変化が続いていた。発酵とは、目に見える勢いだけで進むものではなく、静かな時間の中でも続いている営みなのだと感じます。

水に溶けるタンパク質や遊離アミノ酸が、発酵後だけでなく、後熟後にも増えていたという結果はとても興味深いものでした。納豆菌がつくった酵素は、温度が下がったからといって、すべての働きを瞬時に止めるわけではないのでしょう。生きた菌の数だけを見ていては分からない変化が、食品の中に残された酵素や成分の動きとして続いている。その様子を数字で追えることに、発酵研究の面白さがあります。

ただし、「遊離アミノ酸が増えた」ことと、「誰が食べても必ずおいしく感じる」ことは同じではありません。今回調べられたのは成分や色、機器で測定した食感などです。実際に多くの人が食べ比べて、後熟後のほうを好んだと確認した研究ではありません。うま味に関係する成分が増えた可能性を知ることはできますが、味の感じ方には香りや食感、好みも関わります。科学が測った範囲と、私たちが舌で感じる世界は、重なりながらも同一ではない。その違いを忘れずにいたいと思います。

そして、この記事で特に慎重に扱いたいのが、「要冷蔵」という言葉です。納豆の製造では、発酵後に冷却し、熟成させる工程があります。しかし、市販の納豆に書かれた「要冷蔵」は、家庭でも後熟を進めてくださいという案内ではありません。表示された品質と安全性を保つための保存条件です。店頭に並ぶ納豆は、すでにメーカーが管理した製造工程を経ています。買ってから長く置けば、研究と同じ変化が再現されると考えることはできません。消費者としては、表示された温度と期限を守り、おいしいうちに食べる。それが基本だと思います。

この区別は、小さく見えて大切です。研究室では、特定の納豆菌株を使い、37度で24時間発酵させ、さらに4度で24時間置いています。豆の種類も菌株も温度も時間も、条件がそろえられています。一方、市販の納豆にはさまざまな製法があり、家庭の冷蔵庫にも温度差があります。ひとつの研究結果を、そのまま家庭での保存法や手作りの手順へ置き換えない。これは発酵食品の記事を書くうえで、私が大事にしたい姿勢です。

ナットウキナーゼやGABA、ビタミンK2という名前を見ると、つい健康への期待が先に立ちます。けれども、今回の研究は人が納豆を食べたあとの体の変化を調べたものではありません。食品の中に何がどれだけ含まれていたか、試験管内でどの程度の酵素活性が測られたかを調べた研究です。成分が存在することと、それを食べた人に特定の作用が現れることの間には、まだいくつもの確認が必要です。

なお、本記事ではビタミンK2の数値をあえて紹介していません。ビタミンK2の数値について、原著に記載された単位が一般的に知られている納豆の含有量と大きく違って見える点も、見過ごせません。論文に書いてあるから、そのまま紹介してよいとは限らない。誤記なのか、測定や換算の条件が違うのか、外からは断定できません。確認できない数字を無理に使わず、いったん立ち止まることも、科学を紹介する側の役割だと思います。

また、納豆に含まれるビタミンKは、ワルファリンを服用している方にとって重要な注意事項になります。「発酵食品だから体によさそう」という一般的な印象だけで判断してはいけません。体調や薬によって、食品との付き合い方は変わります。健康に関わる記事では、期待できそうな面だけでなく、誰が注意すべきかまで伝えてこそ、読者に対して誠実でいられるのだと思います。

納豆の場合、付属のたれや醤油をどれだけ使うかによって、塩分も変わります。私なら、健康成分を期待して納豆だけを増やすより、たれを少なめにし、野菜や汁物などと組み合わせながら、日々の食事の一品として楽しみたいと思います。そして食事だけに答えを求めず、今続けているジョギングや運動、睡眠も大切にしたい。健康は、ひとつの食品だけでつくられるものではなく、毎日の小さな習慣が重なった先にあるものだからです。

今回の研究が教えてくれた最も魅力的な点は、納豆の効能ではなく、納豆が完成していく時間の奥深さでした。発酵前の大豆、発酵直後の納豆、後熟を終えた納豆。同じ材料が、菌と酵素と時間によって少しずつ別の状態へ移っていく。脂質や糖が使われ、タンパク質がほどかれ、アミノ酸や香りの構成が変わる。発酵とは、何か一つの成分を増やす技術ではなく、食品全体を組み替えていく複雑な営みなのだと分かります。

昔のつくり手は、こうした数値を知りませんでした。それでも、温度を見て、香りを嗅ぎ、豆の状態に触れながら、発酵後に冷やして味を整える工程を受け継いできたのでしょう。経験によって守られてきた手順を、現代の研究が成分や食感、香気の変化として読み解いていく。伝統と科学は、どちらかが正しいと競うものではなく、同じ現象を異なる角度から見ているのだと思います。

一方で、昔からの言い伝えを科学が完全に証明した、と急いで結論づける必要もありません。ひとつの菌株、ひとつの製造条件で得られた結果は、発酵の世界の一場面です。別の豆や菌株、温度、後熟時間では違う変化が起きるかもしれない。市販品ごとの違いや、人が実際に感じる味わいについても、まだ調べる余地があります。分かったことを喜びながら、分からないことを残しておく。その余白が、次の研究につながります。

私は、発酵食品の価値を大きな健康効果だけで語りたくありません。納豆には、独特の香りがあり、糸を引く面白さがあり、ごはんによく合う味があります。忙しい朝でも手軽に食卓へ出せて、日本の暮らしの中で長く親しまれてきました。病気を防ぐと証明されなくても、その文化的なおいしさと便利さはなくなりません。

研究を知ることで、いつもの納豆が少し違って見える。それで十分なのだと思います。パックの中には、豆と菌だけでなく、温かい発酵の時間と、冷たい後熟の時間が重なっている。目には見えなくても、その時間が一粒一粒の成分や香りを変えている。そう思いながら箸で混ぜれば、いつもの食卓にも新しい発見があります。

納豆は、「発酵が終わったら完成」という単純な食品ではありませんでした。ただし、その事実を「長く冷蔵すればもっと健康によい」という話に変えてはいけない。研究が示したのは、管理された製造条件の中で、後熟中にも食品の変化が続いていたということです。そのままの大きさで受け止めるからこそ、この発見は面白いのだと思います。

発酵には、勢いよく菌が増える時間もあれば、低温の中で静かに成分が動く時間もある。人の暮らしも、どこか似ているのかもしれません。目立つ変化だけが前進ではなく、休んでいるように見える時間にも、内側では何かが整っていく。納豆の後熟を知って、そんなことまで考えました。

次に納豆を食べるときは、保存表示をきちんと守りながら、その一パックがたどってきた時間に少し思いを向けてみたいと思います。健康効果を急いで求めるのではなく、菌と酵素がつくった味を、いつもの食事として楽しむ。そのうえで、運動し、よく休み、食事全体を整える。私にとって納豆は、特別な薬ではなく、毎日の暮らしに無理なく寄り添ってくれる発酵食品です。


参考文献 He Y, et al. “Differences in Nutrition and Sensory Quality Between Cooked Soybeans, Fermented Natto, and Post-Ripening Natto.” Foods 2026;15(2):237. DOI: 10.3390/foods15020237

※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。