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山陽の旅、三日目。早朝の日御碕灯台と、ウミネコの楽園。
朝6時20分。目が覚めると、外はもう明るかった。
今日はいい天気だ。窓の外を、ツバメが飛び交っている。鳶も、空高くで輪を描いている。旅の三日目。出雲の朝は、鳥たちの声で始まった。
朝の温泉と、ツバメの親子
まずは朝風呂へ。
昨夜と同じ、ナトリウムの塩の湯に、朝からゆっくり浸かる。これがまた、気持ちがいい。体がしゃきっと目覚めていく。湯を上がって、朝食の会場へ向かった。和室で、昨日と同じ場所だ。
朝ごはんを食べていると、ちょっとした騒ぎがあった。
ツバメの子どもが、ベランダの隙間に入り込んで、出られなくなってしまったのだ。お母さんツバメが、心配そうに周りをウロウロしている。「人間のにおいがついたら、嫌われないかな」。そんなことを思いながらも、放っておけなかった。
そっと、手で子ツバメをすくい上げる。そして、ガラスでできたベランダの壁の上に置いた。その途端、子ツバメはぱっと羽ばたいて、飛び立っていった。
よかった。お母さんツバメのところへ、ちゃんと帰れただろうか。朝から、いいことをした気分だ。こういう小さな出来事が、旅の朝を温かくしてくれる。
早朝の日御碕灯台、ふたたび
朝食のあと、外へ散歩に出た。
昨日の夕方に歩いた、日御碕灯台のほうへ、もう一度足を向ける。朝の灯台は、夕方とはまったく表情が違った。
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早朝だからか、人がほとんどいない。
静かだ。聞こえてくるのは、波の音と、鳥の鳴き声だけ。ウミネコだろうか、海猫の声が、風に乗って響いてくる。空気が、驚くほど澄んでいる。快晴。雲ひとつない青空だ。今日も暑くなりそうだが、朝のうちはまだ涼しい。
私は、浴衣のままだった。
妻はちゃんと洋服に着替えていたけれど、私はどうにも浴衣が心地よくて、そのまま草履をつっかけて、うらうらと歩いていた。旅先の朝に、浴衣で海辺を歩く。こんな贅沢は、なかなかない。
岩の国と、出雲松島
灯台の奥へ、道はまだ続いていた。
歩いていくと、向こうからご夫婦らしき二人連れが歩いてきた。お互い、軽く会釈をする。道は舗装されていて、奥まで行けそうだ。
そこに広がっていたのは、岩、岩、岩の世界だった。

ごつごつとした岩が、海岸いっぱいに広がっている。まるで「岩の国」だ。いや、恐竜が出てきそうな、太古の世界と言ったほうがいいかもしれない。ダイナミックで、圧倒される。下のほうの岩場では、釣り人が糸を垂れていた。本物の磯釣りだ。あんなところまで、どうやって下りていったのだろう。
しばらく行くと、出雲松島が見えてきた。

海に、大小の岩の島が点々と浮かんでいる。緑をのせた岩が、青い海に映えて、まるで箱庭のようだ。この景色を見られただけで、早起きした甲斐があった。

ウミネコの楽園と、日御碕神社
そして、ウミネコだ。

崖の上の岩に、ウミネコの大群がいた。一千羽は、いるだろうか。鳴き声が、あたり一面に響きわたっている。聞けば、このあたりは海流と海流がぶつかる場所で、海の生きものがとても豊かなのだという。だから、ウミネコたちも集まってくる。天敵もいないから、安心して子育てができるのだろう。
私たちの姿を察知したのか、いっせいに鳴き声が大きくなった。すごい数だ。夢中で、何枚も写真を撮った。
そこから、ひんやりとした森の道を抜けて、日御碕神社へ向かった。
森の中は、日が差さず、空気がひんやりとしている。湿気がなくて、心地よい。
やがて、朱色の社殿が見えてきた。西の門から、中へ入る。

赤に満ちた、美しい神社だった。

出雲大社とはまた違う、凛とした静けさがある。鳥のさえずりだけが聞こえる境内で、静かに手を合わせた。神話のふるさと、出雲。その奥にある日御碕の地で、こうして朝のひとときを過ごせたことに、感謝した。
いい宿だった
宿に戻り、チェックアウトを済ませた。
ひとつ、やってしまった。腕時計を、大浴場に忘れてきてしまったのだ。昨夜、お酒を飲んだあとに湯に入ったからだろうか。少し酔っていたのかもしれない。まあ、こういうことも、たまにはある。無事に戻ってきたので、よしとしよう。
それにしても、本当にいい宿だった。
木のぬくもりのある和室、よく温まる塩の温泉、灯台に沈む夕日、そして石見神楽。ここでの一夜は、忘れられないものになった。また、いつか来たい。心からそう思える宿だった。ありがとう、と心の中でつぶやいて、車に乗り込んだ。
出雲大社で、手を合わせる
宿を出て、向かったのは出雲大社だ。

空は、雲ひとつない快晴。気温はぐんぐん上がって、25度を超えていた。妻は日傘をさしている。UVカットの日傘だ。夏のような日差しの中、駐車場に車を停めて、参道を歩いた。

出雲大社は、縁結びの神様で知られる。けれど、ここはそれだけの場所ではない。神話のふるさと、出雲。その中心にある、日本でも特別な社だ。大きなしめ縄を見上げると、自然と背筋が伸びる。

二礼四拍手一礼。出雲大社の作法で、静かに手を合わせた。
何かを強くお願いしたわけではない。ただ、こうして無事に旅を続けられていることへの感謝を、心の中で伝えた。それだけで、気持ちがすっと整う気がした。
出雲そばを、いただく
少し早い時間に出雲に着いたので、昼前に出雲そばを食べることにした。

出雲そばは、そばの実を皮ごと挽くから、色が濃くて、香りが強い。ひと口すすると、そばの風味が鼻に抜けていく。つゆをそばに直接かけて食べるのが、出雲の流儀だ。薬味と一緒に、つるつるといただく。
そばつゆも、薬味も、発酵の知恵が支えている。醤油やみりん、出汁。日本の食は、どこへ行っても発酵に行きつく。旅先でその土地のそばを味わうたびに、そう思う。素朴で、力強い味だった。
お腹も心も満たされて、ふたたび車に乗り込む。これから、米子へ向かう。出雲をあとにして、次の街で一泊する予定だ。
旅は、まだ続く。
三日目が、こんなにも豊かだったことを、私はきっと忘れない。
浴衣のまま海辺を歩いた朝のことを、これからも何度でも思い出すだろう。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。