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未溶融チェダーで腸内細菌の指標に変化?発酵食品研究10本をまとめた巻頭言
この記事について:本記事は、発酵食品と腸内細菌に関する研究をまとめた特集号の巻頭言(エディトリアル)を紹介するものです。特定の食品が病気を予防・治療すると示すものではなく、医療上の助言でもありません。紹介する研究には、ヒトを対象にしたものと、マウスなどの動物実験が混在しています。どちらであるかは本文中で明示しますが、動物実験の結果が人に当てはまるとは限りません。
チーズを、そのまま食べるか、溶かして食べるか。
たったそれだけの違いで、腸内細菌への影響が変わるかもしれない――そんな研究があると聞いたら、少し驚くだろうか。
発酵食品と腸内細菌の相互作用をテーマにした特集号が、学術誌「Frontiers in Microbiology」に組まれた。その巻頭言(エディトリアル)が2026年7月に公開されている。アイルランドのTeagasc食品研究センター、インドのタタ基礎研究所、リトアニア健康科学大学、ポルトガルのカトリック大学の研究者ら4名が編集を担当した。
収録されているのは、研究論文8本とレビュー2本の、あわせて10本。今回はこの巻頭言を手がかりに、いま発酵食品の研究で何が調べられているのか、その見取り図をのぞいてみたい。
巻頭言(エディトリアル)とは何か
本題に入る前に、この記事が扱う資料の性質を説明しておきたい。
学術誌では、あるテーマに沿って複数の論文を集めた「特集号」が組まれることがある。その冒頭に置かれるのが、編集者による巻頭言だ。「この特集にはこんな研究が集まりました」と紹介し、分野の現状や課題を整理する文章である。
したがって、巻頭言そのものが新しい実験結果を報告しているわけではない。ここで紹介するのは、あくまで「こういう研究が行われている」という情報である。個々の研究の詳しい条件や限界までは、この記事では追いきれない点を、あらかじめお伝えしておく。
なお、この巻頭言には、本文の草案作成に生成AIを利用し、著者が内容を検証・編集したうえで責任を負う旨が開示されている。これは収録された10本の研究論文をAIが作成したという意味ではなく、あくまで巻頭言という紹介文の執筆過程に関する開示である。
未溶融チェダーで、指標に変化
まず紹介したいのが、Chonnacháinらによる研究である。これはヒトを対象にした試験だ。
ただし、研究の規模と性質を正確に押さえておきたい。この報告は、元の試験の参加者のうち、便試料を任意に提供し、摂取条件を満たした69人を対象とする二次的・探索的解析である。参加者は50歳以上かつBMI25以上で、未溶融群30人、溶融群18人、対照群21人に分かれ、チェダーチーズを1日120g、6週間摂取した。一般的な量や、幅広い年代を対象にした研究ではない。
結果はこうだ。未溶融群では、介入前後で便中細菌の多様性指標が増加した。一方、溶融群では、介入前後の有意な増加は確認されなかった。ただし、一方の群だけで有意だったことから、両群の変化量に差があると直ちに断定することはできない。
個別の菌については、DoreaとErysipelotrichaceae UCG-003では未溶融群の介入前後で相対存在量の増加が、Bacteroidesでは介入後の未溶融群と溶融群の間で相対存在量の差が報告された。ただし、いずれも探索的な解析であり、再現性の確認が必要である。
食品の「加工の状態」が、腸内細菌との関わりに影響する可能性を示唆する結果ではある。しかし、細菌の多様性指標が増えたことが、そのまま健康につながると確かめられたわけではない。腸内細菌の多様性は健康の目安の一つとされることが多いが、この解析が示したのは、あくまで菌の構成に関する指標の変化である。
なお、この研究は Food for Health Ireland を通じた公的・産業界の資金支援を受けて実施されている。結果が誤りという意味ではないが、研究の背景として確認しておきたい。
ケフィアの研究も、ヒトが対象
もう一つのヒト試験が、Choiらによるケフィアの研究だ。
18歳から30歳の若い健康な参加者28人が完遂した短期間の試験では、1日150ミリリットルのケフィアを2週間飲んだ群で、一部の菌の相対存在量に変化が報告された。具体的には、Bifidobacterium breve、Ruthenibacterium lactatiformans、Weissella koreensis、Leuconostoc mesenteroides、そして Blautia の仲間といった、乳酸をつくる菌である。
ケフィアは、乳を乳酸菌と酵母で発酵させた飲み物だ。日本ではあまりなじみがないかもしれないが、東欧や中央アジアで古くから飲まれてきた発酵乳である。
ここでも注意しておきたい。これは2週間という短期間・少人数の試験であり、参加者も若い健康な人たちである。菌の相対存在量が変わったこと自体は興味深いが、健康状態の改善を確かめた試験ではない。
マウスでの研究も含まれている
特集号には、動物実験も収録されている。ヒト試験とは区別して読む必要がある。
Zhouらは、中国のザワークラウト(発酵させた白菜漬け)の汁から、3種類の乳酸菌を分離した。そのうち Lactiplantibacillus sp. LP03 という株を、薬剤で肺の線維化を起こしたマウスに与えたところ、死亡率や全身の炎症、コラーゲンの沈着が減ったと報告されている。ここで与えられたのは発酵野菜そのものではなく、そこから分離された特定の菌株である。この区別は重要だ。
Haoらの研究では、乳酸菌で発酵させた「三豆スープ」(中国の伝統的な食品)を、高脂肪の餌を与えたマウスに用いた。すると、短鎖脂肪酸をつくる Prevotella、Coprococcus、Oscillospira といった菌が増え、酪酸とプロピオン酸の量が、それぞれ約1.8倍になったと報告されている。
どちらも興味深い結果だが、マウスでの実験である。人が同じ食品を食べて同じことが起きるとは限らない。この点は、はっきりさせておきたい。
編集者自身が指摘する課題
この巻頭言で、私がもっとも誠実だと感じたのは、編集者たちが分野の課題をはっきり書いていることだ。
彼らはこう述べている。菌株や代謝産物のレベルで分かってきた仕組みを、食事の指針や機能性食品の設計へとつなげるには、より多くの、管理されたヒト試験が必要であると。
つまり、動物実験で見つかった有望な結果だけでは足りない。人を対象に、条件をそろえて確かめる研究を積み重ねなければ、「こう食べるとよい」という助言にはつながらない、というわけである。
研究をまとめる立場の人たちが、自ら「まだ足りない」と書く。その姿勢は、読む側にとっても大切な指針になる。
私たちは、どう受け止めるか
こうして見渡すと、発酵食品の研究が、いくつもの段階にまたがっていることが分かる。
試験管の中での実験がある。マウスなどの動物実験がある。少人数・短期間のヒト試験がある。そして、その先に、多くの人を長期間追いかける大規模な研究がある。
同じ「発酵食品と腸内細菌の研究」という言葉でくくられていても、どの段階の話なのかによって、言えることの重みはまったく違う。ニュースの見出しだけを見ていると、この違いは見えにくい。
今回の特集号は、その多様な段階の研究が、同時に進んでいることを教えてくれる。まだ答えが出ていない分野を、研究者たちが少しずつ埋めている最中なのである。
食卓へのささやかなヒント
とはいえ、チーズの研究には、少し心を惹かれるものがある。
食品の加工の状態が、腸内細菌との関わりに影響しうる。これは、発酵食品を「何を食べるか」だけでなく、「どんな状態で食べるか」という視点でも研究されている、ということだ。
味噌汁は加熱するし、パンは焼く。漬物やヨーグルトは、そのまま食べることが多い。同じ発酵食品でも、私たちは無意識にさまざまな食べ方をしている。その違いを科学がどう捉えるのか、これから明らかになっていくのだろう。
もっとも、「チーズは溶かさずに食べるほうがよい」と言えるほど、話は単純ではない。今回紹介したのは、限られた条件・限られた人数での探索的な解析である。両群の差が直接証明されたわけでもない。今後、別の研究者が同じことを確かめられるかどうかも、まだ分からない。
期待しすぎず、しかし興味は失わずに。そんな距離感で、これからの研究を見守りたい。
Toshiより
今回の記事を読んで、私がまず面白いと思ったのは、「何を食べるか」だけでなく、「どのような状態で食べるか」まで研究の対象になっていることです。
チーズは、そのまま食べることもあれば、パンや料理にのせて溶かすこともあります。私自身、普段はそこに大きな違いがあるとは考えていませんでした。同じチェダーチーズなら、形や温度が変わっても、基本的には同じ食べ物だと思っていたからです。
ところが今回紹介した研究では、溶かしていないチェダーチーズを食べたグループで、便中細菌の多様性を示す指標に介入前後の変化が報告されました。一方、溶かしたチーズを食べたグループでは、同じような有意な変化は確認されなかったといいます。
たった一つの調理上の違いが、腸内細菌との関わり方に影響する可能性がある。この発想は、とても新鮮でした。
ただし、ここで「それならチーズは溶かさない方が体によい」と結論を急いではいけません。
この解析の対象となったのは、便試料を提供し、定められた摂取条件を満たした69人です。参加者の年齢や体格にも条件があり、食べたチェダーチーズは1日120グラム、期間は6週間でした。一般的な食生活で毎日気軽に再現できる条件とは限りませんし、この量を食べることが推奨されているわけでもありません。
また、未溶融群で介入前後の変化が確認され、溶融群では確認されなかったからといって、それだけで「未溶融群の方が明らかに優れていた」と言えるわけではありません。細菌の多様性が増えたことと、体調がよくなったことも同じではありません。病気の予防や健康状態の改善が確認された研究でもありません。
こうした条件を一つずつ確認すると、研究結果の受け止め方が変わってきます。
私は、科学研究の面白さは、派手な結論だけにあるのではないと思っています。「何かが証明された」という結果だけでなく、「これまで同じだと思っていたものに、違いがあるかもしれない」と、新しい問いが生まれることにも大きな価値があります。
今回のチーズ研究は、まさにそのような研究ではないでしょうか。
なぜ、溶かしたチーズと溶かしていないチーズで、腸内細菌の指標に異なる動きが見られたのか。加熱によってチーズの構造が変化したためなのか、脂質やたんぱく質の消化のされ方が変わったためなのか、それとも別の理由があるのか。今の段階では、まだ分からないことが多く残されています。
しかし、分からないからこそ、次の研究につながります。同じ結果が別の参加者でも再現されるのか、摂取量を変えるとどうなるのか、より長い期間ではどうなのか、実際の健康状態と関係するのか。そうした検証が積み重なって、少しずつ全体像が見えてくるのでしょう。
ケフィアの研究についても、同じことを感じました。
若い健康な参加者がケフィアを2週間飲み、一部の腸内細菌の相対存在量に変化が報告された。これも興味深い結果ですが、短期間かつ少人数の試験です。菌の割合が変わったからといって、すぐに「健康になった」とは言えません。
腸内細菌の研究では、菌の名前や割合の変化が注目されます。しかし、ある菌が増えたことが、すべての人にとって同じ意味を持つとは限らないようです。腸内環境は、食事、年齢、生活習慣、体質など、さまざまなものと関係しています。単純に「この菌が増えればよい」と考えない慎重さが必要だと思います。
今回の特集には、ヒト試験だけでなく、マウスを使った研究も含まれていました。
動物実験は、体の中で起きている仕組みを調べるために重要です。その一方で、マウスで観察された結果が、そのまま人にも当てはまるとは限りません。発酵野菜から分離された菌株をマウスに与えた結果を、「その発酵食品を人が食べれば同じ結果になる」と読み替えることもできません。
「発酵食品の研究」とひとくくりにせず、試験管内の実験なのか、動物実験なのか、人を対象にした試験なのか。その違いを見ることが大切だと、今回の記事を通じて改めて感じました。
私は発酵食品が好きです。味噌、納豆、漬物、ヨーグルト、チーズなどを日々の食事で楽しんでいます。ただ、それは「食べれば必ず健康になれる」と信じているからではありません。
発酵によって生まれる味や香りが好きで、日本や世界の食文化として面白いと感じるからです。そのうえで、体との関わりが科学的に少しずつ研究されていることに興味を持っています。
研究結果を知るたびに食べ方を大きく変える必要はないと思います。今回の研究を読んだからといって、私が溶かしたチーズを食べなくなることもありません。熱々のチーズトーストには、その食べ方ならではのおいしさがあります。一方で、溶かしていないチーズを少量、そのまま味わう楽しみもあります。
大切なのは、一つの研究結果から「こちらが正解、こちらは間違い」と決めつけないことではないでしょうか。
科学は、昨日までの常識を否定するためだけにあるのではなく、身近なものを、もう少し細かく見るための道具でもあります。同じチーズでも、加工や調理の状態によって、体との関わり方が変わる可能性がある。その問いを持てただけでも、いつもの食卓を見る目が少し変わります。
発酵食品には、まだ分かっていないことが数多くあります。菌の種類だけでなく、原料、発酵時間、保存方法、加熱、食べ合わせ、食べる人の状態によっても、結果は変わるのかもしれません。
だからこそ、発酵食品を「魔法の健康食品」としてではなく、長い歴史と複雑な仕組みを持つ食べ物として見ていきたいと思います。
期待しすぎず、否定もしすぎない。研究で確認されたことと、まだ分からないことを分けながら、日々の食事はおいしく楽しむ。その距離感が、私にはいちばん自然です。
何を食べるかだけでなく、どう食べるか。そして、どのような条件で確かめられた研究なのか。
一枚のチーズから、そこまで考えさせてくれたことが、今回の研究のいちばん面白いところだったと思います。
※本記事の画像は、発酵食品と腸内細菌研究を表現したイメージ画像です。研究で使用された試料や特定の商品を撮影したものではありません。
何を食べるかだけでなく、どう食べるか。発酵の科学は、そこまで見ようとしている。
※ この記事は個人の体験と公開情報に基づくものです。特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。健康上の不安がある方は、医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。詳しくは免責事項をご覧ください。